この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S1E3-4

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プールサイド

一人、シャーロックがプレゼント=ミサイルの設計図をもってきたと闇に向かって語りかける。

そこへジョンがEvening、ここのシャーロックの、いやベネデイクトの演技がすごい。数秒間、目だけで、驚き、悲しみ、疑い、が瞬間で交差する複雑な感情を表現している。

マーテインの絶妙のうまさは勿論なのだけれど、ベネディクトも、ものすごく計算した演技だ。

この場面だけでなく、シャーロックの感情はいつもごく短い時間でごくわずかにわかる範囲で表されるので、その動きをみのがさないように読み解くにはこちらにも覚悟がいる。それがまたストーリー上、結構重要な鍵だったりするときている。

 

 

このプールサイドの脚本は、才人ゲィティスが練りに練った緻密で高度にしかけのある言葉が並ぶ。

 

ジョンが言うGottle o’gear, は、「腹話術で「bottle of beer」と言うときの音の様子(下手な腹話術師の場合)」だそう。

キカクブ日誌さんのブログから。

これを言わせることで、ジョンがあやつり人形になっていることがわかるというしかけだ。

 

 やがてジョンの胸にまきつけられた爆弾が見え、見ているほうも、安心する。いや、心配だけど。

 

病院のジム=ジム・モリアーテイ登場

次にシャーロックが言うDear Jimは、BBCの長寿番組「Jim’ll Fix It」

にひっかけたものだとか。これは、水川清話YukoKatoさんのブログから。

 

視聴者が解決してもらいたい問題を相談するという内容とのこと。これはイギリスにいてBBCを見ていないとわからない。

 

モリアーティは相談を犯罪によって解決してあげるわけだ。Consulting criminal。これもConsulting detectiveと見事に対になっている。

 

アンドリュ-・スコットの演技についてはたくさんの方が感嘆しているのでここでは簡単に。

 

たぶん世の悪役とされる俳優の誰にも似ていない演技。すごみとおかしみと、底知れない悪への興味、喜び、しかもシャーロックを何もかも知っているという不気味さ、

あのカール・パワーズの靴は恐かった。ほら君の知っているカールは実は僕が殺したんだよーーという時の明るい怖さ。

その時からシャーロックのことを知っていたからこそゲームを仕掛けてきた。一緒に遊ぼうと。Hellow sexyは、その長いこと、この時を待っていたドキドキ感、高揚感を表しているように思う。

精神的に高まる気持がセクシャルな高揚と共通しているという理解が、ゲイティス、あるいはイギリス、ヨーロッパ的文化にはあるのかもしれない。ベネデイクトもS2E1のコメンタリーで同じようなことを言っていたし。

 

このプ-ルサイドのシーンになぜ私たちがひきつけられるのかと言えば、最初のジョン=モリアーテイ?のショックから始まって、いつものシャーロックとは違う、素の部分がかいま見えるところだ。

混乱しているところを見せてはいけないという自制と、ジョンを心配する気持が瞬間に錯綜する。

 

ジョンが身を挺してモリアーテイを羽交い締めする。

シャーロック逃げろ!Sherlock run!

 

しかし銃の照準がシャ-ロックにあたり、ここでモリアーテイはジョンをふりほどき、Westwoodと。もちろんVivienne Westwoodですね。字幕では「高級品だ」、になっていたけれど、ブランド名をいうほうがふざけていて面白い。NHKだからね、仕方ない。

 

この後モリアーテイが去り、シャーロックはよろけながらジョンの爆弾をとりはずす。All right?Are you all right?

 シャーロックの取り乱し方がはんぱじゃなく可愛い。ジョンはこの世にただ一人の大切な人。いやおうなく自覚するシャーロック。

 

この後の、うろうろしながらどもりながら言うthat was,・・goodもね。

たぶん誰かにお礼を言おうと思ったのは生まれた初めてだったのでは?気持の表し方がわからないシャーロック。

 

真っ暗なプールで君が僕の服を脱がすところを見られたら大変だ、というジョンの言葉で微笑みあう二人。

 

ほっとするまもなく、モリアーティが戻ってくる。

 

シャーロックとジョンは目と目だけで確認しあう。自分達の命は今ここでなくなっても、モリアーティを亡きものにするほうが大事だ。シャーロックの銃口は、上から下へ移動していき、やがて足下の爆弾へ。

 

ジャーン、終わり。

 

いや、このS1E3は文句なくおもしろい。メインのストーリーも破綻がないし、そこにシャーロックとジョン、モリアーテイそれぞれの個性がからみあって、すべてが最後のプールサイドのシーンへと収斂していく。

 

ジョンの自分の身を犠牲にしてもシャーロックを助けようとする勇気、それに応えて、シャーロックも自分の命よりも世界を救おうとする。

S1E3の最初からのテーマが、理屈ではなく行動で、ストーリー自体で解決されていく。

 

それにこの回はS1の中でも最初に撮影されているから、ベネディクトが綺麗で嬉しい。

ラボのシーンの瞳とか超アップに耐える肌の美しさとかね。D&Gのシャツ姿も楽しめたし。このままの二人でいてほしいのだけど。