Sherlock S4E2-1
シーズン4 エピソード2
臥せる探偵 The Lying Detective
脚本 スティーヴン・モファット
監督 ニック・ハラン
原作は、「瀕死の探偵」The Adventure of the
Dying Detective
The Lying Detective 「臥せる」は、lieの、横たわる、と嘘をつく、 のダブルミーニング。
S4E2は、カルヴァートン・スミスをめぐるメインのストーリーと、シャーロックとジョンのアナザーストーリーが並行して進む。二つは絡み合いながらも、それぞれに完結するので、 S4E1よりは構成がわかりやすい。
S4E2は、とにかく画面のトーンがずーっと暗い。 S3E2と対照的だ。 S4E2は、シャーロックもジョンも二人とも絶不調だからだ。
S4E1では、シャーロックのダメダメさと同時にジョンの弱さ、孤独、虚しさが描かれていたが、メインの物語へと転換するシャーロックの姿が中心だった。 S4E2では、どん底のシャーロックと、ジョンのダークな部分が描かれるが、二人の和解の中心であるジョンの心の変化の方に重心がある。
シャーロックの心は、S4E1の最後のカットから既にジョンとの和解に向かっているが、ジョンの心が本当に和解に向かうのは S4E2の終盤近くだ。S4E2は、ジョンの心の軌跡を追う物語と言ってもいいかもしれない。
同時にメアリーと男たちの物語も、実はずっと語られ続けられ、シャーロックとジョンの和解の後で三人の物語もやっと終わる。
新しいセラピストの家
セラピーを受けているのはジョン。
セラピストとの会話の間にジョンの回想が挟まれる。ジョンはメアリーの幻影と話をしている。メアリーは、ジョンの心の中に幻として現れ、ジョンをシャーロックとの和解へと導く。
やや強引にシャーロックに話を持っていこうとするセラピスト。だが、ジョンはそれを拒否する。
そこへ猛スピードで走ってきた車がスピンして止まる音。赤いアストン・マーチン。
オープニング
カルヴァートン・スミスの高層ビルのオフィス
三年前
ロンドンの夜景が美しい。
カルヴァートン・スミスは、娘フェイスと数人の友人に何かを告白し、記憶を失わせる薬を投与する。フェイスは杖をついている。
フェイスは、父の告白の言葉のメモをとる。メモは、カルヴァートン・スミスの手に。
画面に挿入されるのは慈善家としてメディアに登場するカルヴァートン・スミス。
カルヴァートン・スミスの告白は。。
私は誰かを殺す必要がある。
I need to kill someone.
ベイカー街221B
シャーロックのところに依頼人が来ている。フェイスだ。
フェイスが書いたメモを手にしているシャーロック。フェイスは部屋の中でも杖をついている。
三年前、父は誰かを殺したいと言った。その名前が思い出せないという。
たった一語 just one word だというフェイス。
シャーロックの手が震える。ドラッグでボロボロなのに、推理してしまうシャーロック。言葉が追いついていかない。メモの匂いをかぐ。サイドテーブルには注射器。
シャーロックはフェイスにバッグを投げるが、重さから中に入っているものがわかる。
帰ろうとしていたフェイスをシャーロックは引き留める。
フェイスの杖から、一瞬、杖をついて歩くジョンの姿を連想するシャーロック。1〜2秒の短いカットだが、終盤への伏線。
立っているのもやっとのシャーロックが外へ出ていくのを心配するハドソンさん。
そんな状態じゃないのに
レセプション会場
タキシード姿のマイクロフト。
電話を片手に、首相と話していた、と不満気だが、会場係が弟さんが家をでました、と報告。つまり、シャーロックは常にマイクロフトの監視下にある。
フィッシュ&チップスの店
土砂降りの中で、シャーロックとフェイスはフィッシュ&チップスの店の椅子に座っている。
シャーロックはメモについての推理を説明する。おそらく、この一週間でシャーロックが食べものを口にするのは初めて?
フェイスと楽しそうに話すシャーロック。
ハドソンさんには、友人ができた、と言ってたし。心が通じることを感じている。
フェイス: すばらしい Amazing.
シャーロック: 当然 I know.
フェイス: チップスが I meant the chips.
思わず笑いだすシャーロック。シャーロックの笑顔は本当に本当に久しぶり!シャーロックを笑わせることのできるフェイスってすごい。
上空にヘリコプターの音。監視されていることに気づくシャーロック。
ジョンの家
ジョンの携帯にマイクロフトから電話がかかってくる。
メアリーの幻影がジョンに、出るべきよ、と語りかける。
モニター監視室
MI6かMI5。管轄からいえばMI5?
ヘリコプターからの位置情報を示す画面を見るレディスモールウッドとマイクロフト 。レディスモールウッドが、誤認捜査の償いがまだだ、とせまると。。「セックス」というフェイスの声が画面にかぶる。
おー、二人は大人の関係に? S2E1でもセックスの暗喩の会話が随所に出てきたし、モファットはこういうフェイントが好きらしい。
リージェント・ストリート
シャーロックとフェイスの会話が続く。フェイスは、杖をついて歩いている。ピカデリー・サーカスに着くと、シャーロックは今歩いてきた道を戻り。。
モニター監視室
笑いが起こる。
シャーロックは意味のある言葉になるように歩いていた。 ○uck off
マイクロフト からジョンへ電話がかかってくる。
シャーロックが一週間ぶりに部屋を出た
あれから一週間がたった、ということがわかる。
国家の機器 the machinery of the state を使って家族の面倒を見るのか、というジョン。
血縁には左右されない。前のケースもそうだったし、、、シャーロックもだ。彼から連絡があれば連絡を、とマイクロフト。
このあたりは、S4E1でも描かれていたイギリス政府そのものであるマイクロフトの描写。権力への痛烈なアイロニーでありながら、マイクロフトのシャーロック愛を微笑ましく思わせてしまうのは、シニカルで冷酷と見せて、実はそれとは違う内面を緻密に計算しているゲィティスの演技力だ。マザコン、ブラコン、legwork嫌い、等々。。
レディスモールウッド: シェリンフォードに連絡は?
定期的に、と答えるマイクロフト。
S4E3へ。
ゴールデン・ジュビリー橋
シャーロックがフェイスの杖を持ち、フェイスは、シャーロックと腕を組んで恋人のように歩いている。シャーロックはいつになく楽しそうだ。フェイスと話している時は素直な自分でいられる。
テームズ川サウスバンク
見えている風景から、おそらくジュビリー・ガーデンズ近く。
ベンチに座り二人が話している。夜があけ、朝日がさし、鳥の鳴き声も聞こえている。二人は雨上がりのロンドンの街を、一晩中、語りあいながら歩いていたのだ。
名前となりうる一語にこだわるシャーロック。
仕事の報酬を、と手を出すシャーロック。フェイスは、バッグの中から拳銃を取り出してシャーロックに渡す。
シャーロックは、その拳銃を川に投げいれる。
君の死を生きるのは、残された人々だ。命は君だけのものではない
メアリーの死、その重みに耐えようとして耐えられないシャーロックだ。
突然、幻覚の中に放り出されるシャーロック。ドラッグがシャーロックを蝕んでいる。
あなたは想像と違う、というフェイス。
フェイス: いい人よ nicer
シャーロック: 比較対象は?
フェイス: 誰でも anyone
倒れ込むシャーロック。
また、あの歌が聞こえる。小さな女の子が歌う歌。
迷子の私
誰が見つける?
海賊帽の小さな男の子とアイリッシュセッターの映像が続く。
我に帰ったシャーロックがベンチを振り返ると、そこにフェイスの姿はなかった。
シャーロックは、フェイスが思いだせない、と言ったその言葉が anyone 誰でも、であることに気づく。そして、その意味するところは、
カルヴァートン・スミスが連続殺人犯 serial killer だということにも。
新しいセラピストの家
三週間後
赤いアストンマーチンが「喜びの歌」と共に猛スピードで疾走する。パトカー、ヘリコプターとカーチェイス。ここでプロローグのシーンにつながる。
ミドルが住む、セミデタッチトハウスが並ぶ郊外の美しい街並み。アストンマーチンはその一軒の前でスピンして止まる。
そこはジョンがセラピーを受けていたセラピストの家の前だ。
運転していたのはハドソンさん。彼女は、ドラッグのカルテルをしきっていた亡夫の遺産でお金持ちなのだ。アストンマーチンも持ってるし、ロンドンの中心地に家も持っている。
ここで、ハドソンさんを追いかけてきたポリスとの電話で、マイクロフトは、内閣府 The Cabinet Office のマイクロフト・ホームズと名乗のる。やはりマイクロフトは、MI6をも統括する内閣のメンバーだったのか!まさにイギリス政府そのものだ。首相とサシで話すわけだね。
ベイカー街221B
ハドソンさんの回想
221Bで銃を乱射するシャーロック。ウィギンスも逃げ出す。
シャーロックが叫んでいるのは、シェークスピアの「ヘンリー5世」、第三幕の台詞。
最後に、シャーロックが言うのが、シャーロックファンにはなじみの深い The game's afoot.
新しいセラピストの家
セラピストがPCを見ながら、シャーロックがツイッターで、今朝、カルヴァートン・スミスは連続殺人犯だと書いた、と。
だが、それを信じようとしないジョン。
本当にイカれたか
ドラッグでおかしくなっていると思っている。
彼と会って助けてあげて、とハドソンさんが懇願する。
いや、いまの僕には無理です
誰か他の人に
冷たくそういうジョンにメアリーの姿が見えている。
ハドソンさん: メアリーの死が辛いのはわかる
でも彼が死んだら誰が残るの?
メアリーは、ハドソンさんを追いなさい、と。
アストンマーチンの側で泣いているハドソンさん。もちろんお得意の泣き真似だ。シャーロックに会って医師として彼を診てあげて、と頼む。
ジョンが機会があれば、近くに行ったら、と言うと、にっこりして車のトランクをあける。車のトランクに入っていたのは、ハドソンさんに手錠をはめられたシャーロック。痙攣がとまらない。
カルヴァートン・スミスからジョンに電話がくる。
シャーロックのツイッターを見た。君たちに会いたい。シャーロックに二週間前に聞いた住所に車をやった、と。
そこへ、カルヴァートン・スミスがよこした黒いリムジンが到着する。
暗い穴の底にいてまだ落ち続けている
奴を阻止すべきなんだ
自分の窮状と推理の正しさを必死に訴えるシャーロック。だが、ジョンは関心を示さず、共感もしない。シャーロックのドラッグを疑い、推理を疑っている。
それがどうしたって言うんだ? So what has all this got to do with me?
カルヴァートン・スミスを撲滅しなければならないが、僕はボロボロで一人ではできない。シャーロックの頼みに、やっと手を差し伸べるジョン。
だが、手を差し伸べたと見せて、ジョンはシャーロックのシャツをまくって腕をみる。ドラッグは演技ではないかと疑っているから。
懇願を受け入れてくれるかと一瞬期待するが、すぐにそうではないことに気づくシャーロック。表情の変化一つ一つを見ていると、こちらが辛くなってしまう。。
ジョンはどこまでも冷ややかだ。
君はいつもウソをつく
二年間、死を装った
シャーロックに信頼されていなかったという失望と怒りが、今また新たに、ジョンの心を支配している。
嘘をついていないか、セカンドオピニオンを求めるというジョン。想定外のモリーに頼むというが、そこに来たのはシャーロックから呼ばれたモリー。モリーも二週間前に呼ばれていたのだった。
何でも協力するから、とハドソンさんに言われるが全くその気の無いジョン。頑なに、自分ではシャーロックを診ようとしない。
アストンマーチンを借りても?というジョンにハドソンさんはダメと即答。終盤への伏線。
深い、暗い穴の中を落ち続けるシャーロック。
シャーロックは底知れない深い絶望の中にいる。誰よりも大切な存在であるメアリーを失ったのだ。しかも、自分の言葉がヴィヴィアンに引き金をひかせた。
シャーロックの絶望は誰にも理解されない。妻を失ったジョンの悲しみは理解されるが、最大の理解者、同志、親友、精神の双子であったメアリーを失ったシャーロックの悲しみは誰にもわからない。ジョンでさえも。
周りの人は、ジョンには同情を寄せるが、シャーロックには非難こそすれ同情はしない。シャーロックの深い絶望と孤独は誰にも理解されず、ドラッグに溺れ、自分の命の危機と引き換えにその一瞬だけ絶望から逃避することしかできないでいる。