この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S4E2-3

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遺体安置室

混乱するシャーロック。カルヴァートン・スミスは嘲笑い、高笑いする。

 

シャーロックの混乱振りは尋常ではない。大丈夫か?と声をかけるジョン。いつのまにか、シャーロックは、メスを握っている。

 

 

取り調べ室

レストレードとジョンの会話。これが少々難所。

 

L:  前兆に気づくべきだった

I keep wondering if we should have been it coming.

 

J:  マグネセンを撃った時、気づいたろ

Not long ago, he shot  Carles  Magnussen in the

face. We did see it coming.

 

J:  でも、みな無視を。楽しかったから

We always saw it coming.  But it was fun.

 

やや、文脈がとりにくいので、放送録画の吹き替えを聞き直してみた。

 

L: いつか、こうなる気もしてたんだが

J:  実際、シャーロックはこの間マグネセンを撃ち殺してる。前からわかってたよ

でも楽しかった

 

こちらの方が、わかりやすいような気がする。

 

いずれにせよ、ここでジョンは、えーーっ??!!ということを言っている。

 

あの事件は、D通告によって社会的には隠蔽された。しかし、その場にいて事実を知っているジョンが、レストレードに国家機密を喋った?

レストレードが一瞬厳しい顔をするのはそのせい?

 

さらに、何を言っているかというと。。

いつかシャーロックが、何かとんでもないことをする?何か事件を引き起こすと思っていた?

でもあの後も、シャーロックが事件を解決するのをみなが期待した。レストレードも 以前と同じようにシャーロックに事件をもってきたし、ジョンも事件解決のためにシャーロックと一緒に動いた。

 

マイクロフトはもちろん、ジョンもシャーロックの殺人をなかったことにした。

しかし、医師であり良識の人であるジョンは、D通告の適用はおかしいと思っていたのかも。シャーロックが権力によって守られ治外法権のような場所にいることを、自分の倫理観に照らして間違いだと思っていたのかもしれない。

伏線は張られていた。国家の機器を家族のために使うのか、とマイクロフトを非難していたし。そして、権力と一緒になって自分もシャーロックの殺人に目をつぶった。シャーロックの行為が何よりメアリーのためであり、ひいてはジョンのためであることを誰よりもわかっていたのはジョンだったから。

 

それが、メアリーの死を招いたのだとしたら。。

 

女性警察官が入ってきて、カルヴァートン・スミスがシャーロックを告訴しないと語る画面を見せる。もちろんBBCのニュース。

 

私が無事なのはワトソン先生のおかげだ、と画面の中のカルヴァートン・スミス。

 

遺体安置室、数日前

カルヴァートン・スミスにメスを持って襲い掛かろうとするシャーロックをジョンがとめる。

ジョンは、シャーロックに殴りかかる。 

よせ、やめるんだ

 

取り調べ室

BBCニュース

リポーター:  あなたの病院で治療を?

スミス: シャーロックには最高のケアを約束する。私の好きな部屋へ移すかも

 

遺体安置室

シャーロックの頬を平手打ちするジョン。

何してる!目を覚ませ!

 

取り調べ室

ジョン:  彼をひどく殴ってしまったよ

傷ついている自分の手を見るジョン。元軍人だからね。腕力は強い。

 

遺体安置室

さらにシャーロックを殴り続けるジョン。

 

これはゲームか?バカなゲームか?

 

さらに強く何度も足蹴を。理性を失っているジョン。病院の職員が駆け込んできて、ジョンを抱きとめるまで、それは続いた。

 

いや、いいんだ。好きにさせろ。彼には権利がある。僕は彼の妻を殺した、とシャーロック。

 

ジョンは冷たく言う。

そうとも Yes, you did.

 

それを聞いたシャーロックの瞳に涙が滲む。

 

ジョンの心の底にあるのは、誰にもぶつけることのできないやり場のない悲しみだ。メアリーを失った現実を、ジョンはどうしてもうけいれられない。メアリーの幻は、その証拠だ。

その気持がシャーロックへの怒りへと転換し、ジョンの理性を失わせてしまう。

自分でも制御できない感情をシャーロックに対して爆発させるジョン。

 

シャーロックはされるがままだ。何もせず、何も抵抗しない。シャーロックは、身を持ってジョンの怒りを受けとめようとする。自分が彼の妻を殺した、という言葉と共に自分の身体を差し出す。

 

このシーンからわかるのは、シャーロックのドラッグが、彼の計算だということ。本当にドラッグまみれのジャンキーなら、これはない。本能的に防御する。だが、何もしない、ということは、シャーロックのジャンキーは意図的なものだ、ということだ。しかし、怒りに身を任せているジョンに、このことはわからない。

 

とはいえ、シャーロックのドラッグ漬けは100%意図的な計画ともいいきれない。シャーロックの言葉にあるように、計画であることは後の展開からも明らか。ただ100%かどうかはわからない。

メアリーが彼にとってどんな存在だったかを考えれば、計画以前にやはり彼はドラッグを使わずにはいられなかったと、思う。

メアリーの死を受け止めきれなかったのは、ジョンだけではない。シャーロックも同じなのだ。

深い悲しみの中にいる二人。でも二人の心は遠く離れてしまった。

 

ここで、もう一度、取り調べ室のレストレードとジョンの会話に戻ってみよう。

遺体安置室での、殴る、蹴る、そしてジョンがYes, you did .  と言うシーンは、見ていても辛いのだけれど、この時、ジョンは自分の感情のままに動き、そして自分の感情を言葉にして吐き出している。

 

しかし少し時間がたち、取り調べ室では、ジョンは、

 

前から(常に)わかってたよ

We always saw  it coming  

 

と言う。この We の中にはジョン自身も含まれている。冷静になってなぜこんなことになったのかを考えた時、自分も含めてシャーロックのドラッグ癖を知っていたのに放置していた、という事実を認めざるをえない。

 

It was fun. という言葉にはシャーロックへの非難は含まれない。この後に省略されているのは、for us  だ。

自分たち自身が楽しかったから。自分たちがシャーロックと一緒に事件を解決するのが楽しかったから、彼の好きなようにさせた。自分も責任の一端がある。親友である自分にも、調教師であるレストレードにも責任がある。少し微笑んでいるようにさえ見えるジョンは、そんな自嘲と自虐のただ中にいるように思える。

 

コメンタリーで、モファットは遺体安置室のシーンでジョンの気持は底を打つ、と言っていたが、その言葉通り、It was fun という言葉には自省が含まれている。シャーロックを憎むところから内省に沈んでいくジョン。

このレストレードとジョンの会話は、事件後のジョンの変化を、数秒のジョンの表情と短い言葉で表しているシーンだ。

大事なシーンはいつも短いが、ここもまた。。

 

重苦しい気持のまま、ジョンはシャーロックと決別するために、シャーロックが入院しているカルヴァートン・スミスの病院におもむく。

 

病室( 73号室)

シャーロックが入院している個室にジョンが来ている。

別れを言いにきた、というジョンの目は虚空を見ているようだ。ジョンの目には何が見えているのか。

ジョンは、別れの贈りものだ、と言って杖を病室の片隅に置いていく。

そこへ、ジョンに電話が。マイクロフトだった。

 

車の中

マイクロフトがよこした車で、ジョンはベイカー街へ。車の座席にはメアリーが一緒に乗っている。

彼に帽子をかぶせなきゃ

 

病室

病室の壁のパネルを開けてカルヴァートン・スミスが病室に入ってくる。手には医療用の手袋。前に見せびらかしていた鍵を使わなくても部屋に入れる。

 

イカー街221B

マイクロフトが部下を使って家宅捜査をしている。

 

台所がまるで麻薬製造所だ

シャーロック暴走の原因を調べる

 

kill    who?と、書いてある紙が落ちる。フェイスのメモ。

 

ジョン: 諜報員を使って家族の世話を?

マイクロフト: 公安の問題だ。血縁には左右されない

メアリー: 質問を

 

ジョン: 前回話した時、血縁には左右されないと、前のケースもそうだったと。誰のことだ

マイクロフト:  誰でもない、言い違えた

ジョン: シャーロック以外に兄弟がいるんだな

塔に閉じ込められた秘密の兄弟?

 

ハドソンさん登場

マイクロフト・ホームズ、私の家で何なの?

 

マイクロフトは、弟の自己破壊も今後ばかりは度を過ぎた。原因を探っていると返事するが、ハドソンさんは笑いだして

あなたって滑稽ね

 

ジョンもマイクロフトも訝しげな表情。

 

ハドソンさん:  シャーロックったらあなたを賢いと思ってる。兄のバカさを知らないなんて

シャーロックの悩みの種?簡単にわかるわ

 

マイクロフト: 弟の思考回路は誰よりも私が理解している

 

ハドソンさん: 彼は思考型の人じゃないわ

彼はむしろ感情的なのよ

未解決の問題はグサッ!

 

その言葉でジョンは、暖炉の上に、ナイフで突き刺してあった封筒を見つける。

 

 

 

ハドソンさん、最高!シャーロックの最大の理解者はもうひとりいる。

 

ハドソンさんの台詞で、私たちは、シャーロック、そう言えばそうだった、と思う。感情的シャーロックは、S4E3への伏線でもある。

もう一人の塔に閉じ込められた兄弟、というジョンの台詞も S4E3へ。

 

諜報員を使って家族の世話を?という、前から続いているジョンの冷めた視点。

 

さまざまな伏線が交錯するこの場面。やがて物語が終盤に向けて動き出す。