この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock sp-1


特別編  忌まわしき花嫁   The Abominable Bride

 

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脚本:  マーク・ゲィティス、

ティーヴン・モファット

 

監督: ダグラス・マッキノン

 

S3とS4に挟まれた特別編。S4への導入になっている。

モファットとゲィティスが、永年の夢、ヴィクトリア時代の作品を作った。シャーロキアンの方々は、あそこにも!ここにも!と原作由来のネタがたくさんあるに違いない。

 

 

二人は今までたくさんの作品があるから、僕たちならではの形にしようと話しあったのだろう。かなり凝った作りになっている。物語が入れ子のような構造になっていて、大部分を占める謎解きは、夢オチならぬマインドパレスオチになっている。

 

19世紀の部分はシャーロックのマインドパレスの中の出来事なので、全てはシャーロックがこう思っていた、ということになる。

 

時間が戻っていき、数字が1885年まで読める。

物語が時代を交錯するので、19世紀のシャーロックはホームズ、ジョンはワトソン、21世紀のシャーロックはシャーロック、ジョンはジョンと表記する。

 

ワトソンがスタンフォードと会うのは、原作通りクライテリオン酒場だ。窓ガラスに逆さ文字。

 

イカー街

イカー街には、クリスマスの歌声が遠くで聞こえている。

 

「四つの署名」で、ワトソンがメアリーと結婚したのが1887年。シャーロック・ホームズとモリアーティが「最後の事件」で、ライヘンバッハの滝に落ちるのが1891年。心は時空をかけめぐり、時はだいたいこのあたりか。

 

ちなみに、ヴィクトリア女王が王位についたのが1837年。以後1901年までヴィクトリア時代が続く。ワトソンが従軍した第二次アフガン戦争は、その中の1878年に起こっている。

 

イカー街、221B

19世紀のメアリーも、香水をつけている。

ワトソンはほとんど家にいないので、夫に会うため、依頼人として221Bに現れたメアリー。黒いドレスを着て黒いベールで顔を覆っている。

ワトソンは分からなかったがホームズは、香水でメアリーだとわかる。

嗅覚の鋭さは、19世紀も同じ。

 

ホームズ:  事件解決にはまず別の事件を。とても古い事件だ。深みに下りなければ

ワトソン:  深み?

ホームズ:  僕自身の

 

この言葉だけでは分かりにくいが、冒頭でこう言わせているのは、これから始まる物語が、モリアーティ復活の謎を解くため、ホームズがマインドパレスに潜る、という意思表示だ。

 

レストレードがホームズのところへ事件を持ちこんでくる。レストレードが何かを恐れていることを看破するのは、ホームズではなくワトソン。

 

ホームズ:  恐怖は、危険回避の知恵。恥ではない

 

バスカヴィルのシャーロックに聞かせてあげたい。大人のホームズは、こんな風に言えるようになっている。

 

レストレードが持ってきたのは、自殺したはずの花嫁姿のエミリア・リコレッティが夫を殺すという怪事件。さらに五つの連続殺人事件が起きる。

ホームズとワトソンは、遺体安置所、モルグへ行こうとする。

 

メアリー:  私はここに?

ワトソン:  後でお腹が減るからよろしく

 

ワトソン:  ツイードは不謹慎かな?

 

ドレスコードを気にするワトソン。ヴィクトリア時代、紳士の外出着は townロンドンでは、 トップハットに黒フロックコート。county田舎では、ソフトハットにツイード。とは、Yuko  Kato  さんのブログで。

 

ワトソンはヴィクトリア時代の伝統的価値規範の中にいる保守的な男性として描かれている。

S1E3、S3E3、各所でも描かれているが、ジョンとシャーロックとは価値観の違いがある。19世紀のワトソンは、メアリーには家にいて、食事を作って自分の帰りを待っていることを期待している。典型的なヴィクトリア朝の価値規範だ。 

 

そういう違いはあるのだが、ゆえに、ここのワトソンは、常にホームズと共に行動する。メアリーと結婚しているにもかかわらず、メアリーを家に残し、ホームズと共に行動するのを厭わない。シャーロックの本心は、ジョンにこうして欲しかったんだね。S3E2で叶わなかった願望をここで叶えるシャーロック。

 

残されたメアリーとレストレードの会話。

 

メアリー:  私、運動中よ

レストレード:  なんの?

メアリー:  婦人参政権運動

レストレード:  賛成?反対?

メアリー:  出て行って

 

メアリーは、婦人参政権運動の活動家だ。S3E1で、シャーロックがメアリーの過去や性格を読むシーンで、自由民主党員  Lib Dem  と、浮かんでいた文字と符号する。

 

取り残されたメアリーに、ハドソンさんが封筒を渡す。Mから、すぐに来い、というメッセージ。

 

ハドソンさん:  どなたから?

メアリー:  (いたずらっぽく微笑んで)  イングランド

 

もちろん、マイクロフトつながり。

 

バーツ、遺体安置所

モルグでモリーは男装。自信たっぷりの立ち居振る舞いだ。優秀でホームズも一目置いている。かたやアンダーソンは、形無しだ。能力がない。せっかくS3E3では活躍できたのに、これがやはりシャーロックの本心だね。

 

モリーの男装は、19世紀には女性にはモルグの仕事はできなかったという歴史的な事実と、侮れない能力があるというシャーロックの競争心か。

S3E1では、アンダーソンの擬装をモリーが見破るシーンでは、嫉妬?!というジョンの声が聞こえていた。

意外にシャーロックは、監察医としてのモリーには対抗心を燃やしていたのかも?

フーパー = モリーが女性であることをワトソンは一瞬で見抜く。観察眼は21世紀のジョンより上だ。

 

モルグの壁に真っ赤な血でYOUの文字。IOU

を連想させる。その文字を見て、

 

ホームズ:  銃口をくわえ後頭部は吹っ飛んだ。彼はどうやって生き延びた?

 

ワトソンは「彼?」といぶかるが、ホームズが考えているのは、モリアーティの生死だ。死んだはずなのに、何故?

 

ホームズとワトソンは、馬車でディオゲネスクラブへ。

 

ディオゲネスクラブ、外来者室

待っていたのは原作通り太ったマイクロフト。結構リアル。過剰に肥満し、ひたすら食べ続けて緩慢な自殺へと向かっている。マイクロフト自身がティックタックと秒読み。ここは、絶対に太らないシャーロックから見たアイロニー

 

マイクロフト:  嫉妬による殺人が理解できたかな? 偉人が自分をしのぐ偉人を理解するのは難しい

ホームズ:   僕を辱めるために呼んだのか?

マイクロフト:  そうだ

マイクロフト:  まさか

 

本題の前にまず兄弟喧嘩。しかも、ここはシャーロックのマインドパレスの中だから、シャーロックは自分より cleverer  な兄に、かなりのコンプレックスを持っていることがわかる。

 

ここから本題。マイクロフトは、我々は目にみえぬ敵の脅威にさらされている、というと、

 

ワトソンが、

 

社会主義者

無政府主義者

フランス人?

婦人参政権論者?

スコットランド人?

 

と聞くのが、おかしい。保守的な19世紀の良識ある知識人であるジョンの考えがわかる。しかも、婦人参政権論者が入っているのがミソ。

 

マイクロフトは犯人をすでにわかっている。

 

レディカーマイケルの依頼を受けろ

見えない敵を倒さない。間違いなく負ける

正しいのは向こうだからだ

 

レディカーマイケルの件は、マイクロフトの頭の中では、解決済み。ホームズに足で調査しろと。マイクロフトの苦手な leg work。

もちろんホームズは leg workは得意なのだ。19世紀でも。

 

イカー街、221B

レディカーマイケルが事件の依頼に訪れる。

レディカーマイケルは、カーマイケル邸に5つの種が入った封筒が送られてきた日の夜、霧の立ち込める庭で花嫁姿の女、エミリア・リコレッティをみた、エミリアは夫のサー・ユースタスにお前は今夜死ぬと予告した、と訴える。ホームズはレディカーマイケルの依頼を受ける。

 

ディオゲネスクラブ

メアリーをMの名前で、呼び出したのはマイクロフトだった。マイクロフトはメアリーに、自分の指示だと気づかれないよう、シャーロック・ホームズを引き続き監視しろ、と指令する。メアリーの才能と能力をよく理解しているマイクロフト。

マイクロフトも、メアリーも超優秀。しかも、これはシャーロックがそう考えている、ということだから話がどうもややこしい。