この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S3E3-4

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シャーロックの両親の家

メアリーがいる部屋にジョンが入ってくる。

二人は、何ヶ月も話をしていなかった。

 

 

イカー街221B、数ヶ月前

メアリーは、A.G.R.Aと書かれたUSBを机の上に置く。アグラは、原作ファンにはよく知られた「四つの署名」に出てくるインドの都市の名前だ。

 

メアリー:  私のイニシャル。私の過去がそこに。

私の何を知ってるの?

 

シャーロック:  技能からして諜報員。現役か経験者

イギリスなまりだが、外国人。何かから逃げてる。マグヌセンに秘密を知られ彼を殺そうとした。近づくため、ジャニーンと親しくなった

 

メアリー: 私を終身刑にできるネタが奴の手に

ジョン: だから殺すのか?

メアリー: ああいう奴を殺すのが私の仕事よ

ジョン:   つまり殺し屋か

 

シャーロック: マグヌセンが握っている資料を取り戻したいんだね

 

シャーロックの両親の家

部屋に入ってきたジョンは、手にあのUSBを持っている。

 

ジョン: 君の過去は君だけの問題だ。君の未来は、僕の宝だ

 

そう言って、中身を読んでいないというUSBを暖炉の火に投げ入れる。

 

メアリー:  私の本名もしらない

ジョン: メアリー・ワトソンで十分だろう

 

この後の二人の会話は親密だが、ジョンの表情には、ためらいや迷いも感じられる。メアリーは幸せそうだが、ちょっと複雑な表情のジョン。

 

メアリーの本名はここでも明かされない。本名どころか、国籍も、つまりメアリーとされる女性が、本当はどこの誰だか一切明かされない。はっきりわかったのは、イギリス人ではないこと、殺し屋である、ということだけ。

 

シャーロックの両親の家の前庭

この家は、ロンドンからかなり離れたフロントヤードとたぶん大きなバックヤードのある家。いつも出てくるロンドン近郊の家をマイクロフトに譲って、悠々自適の生活だ。

 

喫煙タイムのマイクロフトとシャーロック。

 

マイクロフト:  マグヌセンの件は中止を?

いつもの謎解きと違う。なぜ彼を憎む?

シャーロック:  弱い人々の秘密を食い物にするからだ

 

マイクロフト:  (マグヌセンは)  重要人物に致命傷は与えない

ビジネスマンなのさ。時には役に立つ必要悪だ。退治すべき竜  dragon ではない

シャーロック:  僕を竜退治の英雄  dragon  slayer  だと?

 

マグヌセンを必要悪と考えるマイクロフト。

しかし、シャーロックは、弱い人々の怒りや苦悩の側にいようとする。シャーロックにとって守るべきは、マグヌセンではなくメアリーだ。

 

dragon  slayer  子どもの頃の世界が、大人になった今の会話に再び現れてくる。繰り返される過去と現在。 

 

ここでママが一喝

ママ:  タバコを?   Are you  two  smoking?

マイクロフトとシャーロック、同時に

No !  /  It  was  Mycroft.

 

僕じゃないよ!/ マイクロフトだよ

小さな時と同じ光景。何回もこんなことがあったのだろうな。ママの前では。大人になった今でも同じ。

 

マイクロフト:  君に仕事のオファーがあるが断ってほしい

 M.I.6が君を東欧の潜入任務に戻したがってる。命懸けの任務だ。6ヶ月で死ぬだろう

 

シャーロック:  なぜ断れと?

マイクロフト:  考えたが、ここにいる方が有益だ。竜はここにいる。それに、君が死ぬと悲しい   Also, your loss would  break my heart.

 

シャーロック: なんと答えろと?

マイクロフト:  メリークリスマス

パンチに酔ったのかも

 

マイクロフトのこの告白は、パンチのせい?自分でそう言っているし。

ice manであることを自分に厳しく課しているマイクロフト。いつもは口がさけても言わないのだけど。

 

シャーロックの両親の家の中

次々と眠りにつく家族。メアリーも、パパも、ママも、マイクロフトまで。シャーロックの指示で、ウィギンスが薬の量を計算した。有能な助手。

ただ、マイクロフトはわかってたね、たぶん。

 

ジョン:  何をした?

シャーロック:  悪魔と取引した

 

レストラン、数ヶ月前

まだ、シャーロックは入院中だ。シャーロックに呼ばれたCAM が現れる。

シャーロック:  Appledoreがみたい。秘密のファイルが保管してある場所、そこへ招待してほしい

 

CAM の眼鏡に情報が仕込んであると思っていたシャーロック、眼鏡には何もないことがわかる。

シャーロックの急所にモルヒネが追加。

 

CAM は、Appledoreの代償を要求する。

シャーロックの答は、僕の兄。

 

シャーロックの両親の家

シャーロックは、マイクロフトのラップトップを手に家の外へ。

そこへ、CAM のヘリコプターが迎えにくる。

 

シャーロック:  一歩間違うと国家反逆罪に問われる。  銃は?

ジョン:  ご両親の家に来るのに?

シャーロック:  ポケットに?

ジョン:  入ってる

 

Appledore

火の中へジョンを助けるためにとびこむシャーロックの映像を見ているCAM 。

 

CAM :  君の急所は探しづらかった。麻薬癖は信じていなかった。だが、ジョンの危機には必死に。姫君 Damsel  in  distress  の救出だな

 

マイクロフトは、この国で一番力のある男だ。彼の急所は、麻薬好きの弟シャーロック。シャーロックの急所は、親友ジョン。ジョンの急所は妻メアリー。妻を所有すれば、マイクロフトが手中に。彼が私へのプレゼントだ

 

シャーロック: タダではなく交換だ

 

ラップトップをCAM に渡し、

 

シャーロック: パスワードと引き換えに通称メアリーの資料をよこせ

 

通称、というのはちょっとね。字幕の字数の関係なのだろうけれど。もともとは、the  woman   I  know  as   Mary Watson  と言っている。僕がメアリーとして知ってる女性、あえて、こういう言い方をすることがシャーロックの関心を感じさせる。

 

CAM は、ラップトップに GPSがついているのを指摘して、

CAM : 君の兄は盗難に気づいている。当局がこの家に押し寄せてくる。彼らが目撃するのは、機密を手にした私

家宅捜索しさらなる機密の所有が発覚し、私は刑務所へ。君は罪を免れる。マイクロフトはこの機会を狙ってた。彼は弟を誇りに思うだろう

 

シャーロックが国家機密満載のラップトップを持ち出すことに気づいていたマイクロフト。

 

CAM :  名探偵は一つ大きなミスを犯した。そのせいで大切な人や物を失うことになる

 

CAM はAppledoreの保管庫をみせる。

そこには椅子が一脚あっただけだった。全てはCAM の頭の中に。

Appledore  の保管庫は、CAMのマインドパレスだった。

 

マインドパレスの中のメアリーの資料を見ながら、

CAM :  CIAのための暗殺仕事、その後フリーランスになった。悪い子だ  Bad girl.

 

ジョン: つまり書類は存在しないわけだ

CAM :  時々書類を使うこともあるが、ほとんど記憶だけ

 

この時々っていうのが、例のスモールウッド卿の手紙?

このあたりからシャーロックはほとんど口をきかなくなる。

 

CAM :  知識がすべてなのだ。知ることは、所有すること

なぜ証拠がいる?私は新聞業界にいる。証明せず印刷するだけ

 

また、繰り返されるテーマ。証拠がなくても、つまり真実でなくても、メディアが文字や映像に載せた時点でそれは真実となる。

 

CAM :  君たちは明日の紙面のスターだな。私に国家機密を売ろうとした

 

ジョンが、シャーロック、計画は?と問うがシャーロックは目をふせたまま無言だ。

頭をフル回転させているシャーロック。どうしたらいいか? どうしたらメアリーを救える?

 

Appledoreの外

ここでは表裏、二つのストーリーが同時に進行する。

表ではCAM とジョンのやりとり。

裏ではシャーロックの思考が超高速で回転している。

 

CAM はジョンをいたぶり続ける。いやらしさが素晴らしい。

しかし、彼ら二人の後ろにいるシャーロックの姿が、むしろメインのストーリーだ。結論が見え始めたシャーロックは顔をあげ、じっとCAM を見つめる。

ジョンが、シャーロック、と助けを求めても、すまない、そのままで耐えてくれ、と返事。時間稼ぎをする。

 

マイクロフトが操縦するヘリが近づいてくる。

 

シャーロック:  確認するが、保管庫は君の頭の中にだけ存在するんだな?  

 

もう何をするか決めているシャーロックだ。

 

CAM :  私は悪人ではない。悪の計画もない。

私はビジネスマンで、人も私の資産の一部だ

 

シャーロックは、一瞬、ジョンの横顔を見る。

さようなら、ジョン、お別れだ

 

そしてジョンのコートのポケットから銃をぬきとり、

僕はヒーローじゃない、高機能ソシオパスだ、

メリークリスマス!と叫びながら、、、

 

この時、ヘリの中でマイクロフトが必死の形相で叫ぶ。シャーロック・ホームズに発砲するな!

 

ここまで見てくると、高機能ソシオパスは、シャーロックの自己表現であるように見えてくる。自分と周囲の関係を作るための自己演出。それが自分を守る。人との距離を作る。決して他者が理解できないのではない。

ただその比重は物語の進行とともに徐々に変わってきているかもしれない。ソシオパスは、 S1E1から使われているから。

 

茫然と佇むジョン。

 

シャーロック:  メアリーによろしく。 Give  my  love  to  Mary.  もう安心だと。

 

この  give  my loveは、慣用句。だが、ここではあえてこの言葉を使っていると思う。

この後、Tell her she's  safe  now.  と続く。このmy  love  は、やはり、まずはメアリーへのシャーロックの愛情だと思う。メアリー = ジョンだから、ジョンへの愛情と読み換えることもできるが、ここでは、メアリーのことがシャーロックの頭の中にある、と私には思える。

 

両手を挙げて跪くシャーロック。暗然とした表情だ。絶望的な瞳。メアリーを助けるために、ひいてはジョンのために、人の命を奪った。S1E1の最後のシーンを思い出すが、元軍人のジョンとは違い、おそらく自分の銃で初めて人を殺した。そのことの重さに打ちのめされる。

わずか数秒のカットだが、意味するものは大きい。

 

マイクロフト:  ああ、シャーロック、なんてことを。。

 

この時、マイクロフトの目には、ぽろぽろと涙を流して泣いている小さなシャーロックが見えている。

シャーロックがメアリーに撃たれた時、繰り返された小さなシャーロックの映像。ここで、マイクロフトの心に小さなシャーロックが見えていることが改めて明らかになる。

小さなシャーロックを守ることが自分の使命と考えてきたのに。守り切れなかった。。痛恨の兄。