この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S3E2-1

 シーズン3  エピソード2   

The Sign of Three

 

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脚本:スティーヴ・トンプソン、スティーヴン・モファット、マーク・ゲイティス

監督:コーム・マッカッシー

 

このS3E2はコメディのように見えて、もしかしたら、シリーズ中最も味わいがあるように思う。前半、ユーモア溢れる明るい場面が続くからこそ最後が心にしみる。

物語の作り手の洗練された手腕を感じる作品だ。

 

シリーズ3の構成は、S3E1 で物語が始まりS3 E2 を経て、S3E3  でクライマックスを迎える。

同時に、並行してシャーロックとジョンとメアリーの物語が進行する。S3E2は、三人の関係がどんなものかを示す大切な回だ。

 

 

原作は「The Sigh of Four」。

原作の中でジョンは依頼人である金髪のメアリ・モ—スタンに惹かれ結婚する。

またドラマの中のキーパソンであるショルトー少佐は、原作でも重要な名前だ。

 

原作の中で「四つの署名」とは秘密を知る四人の同盟という意味。

NHKの邦題は「三の兆候」、終盤でメアリの妊娠がわかるからだ。

しかし、私にはこの回の物語の中心がメアリの妊娠だとはどうしても思えない。もちろん終盤からS3E3に向かう大事なファクターであるのは確かだが、S3E2の内容は、シャーロック、ジョン、メアリの三人の関係が中心で、原作と同じ同盟という意味に近い。だが、ドラマでは署名は存在しないので、そのまま「三つの署名」と邦訳するのもまた難しい。

なので、またもや、このブログでは原題のままとしておくことにしよう。

 

この回の前半は、ほとんどのシーンが明るく、ユーモアをまじえて描かれている。

特に結婚の披露宴会場の場面は、画面が明るくてベネデイクトの白い肌や緑がかった灰色の瞳が綺麗。

シャーロックの表情も明るくて可愛い。

何よりもシャーロックの幸福感、そしてシャーロック、ジョン、メアリーの関係が安定していることが映像のトーンで表わされている。こういう表現は、映像作品ならではだ。

 

プロローグ

レストレードが長年追ってきた銀行強盗をあわや現行犯逮捕というそのとき、携帯がなる。

HELP.  BAKER   ST. NOW.    HELP ME PLEASE

シャーロックからだった。 

 

レストレードは、ヘリとパトカーの出動を要請してベーカー街へかけつける。そこで目にしたのは机に向かって結婚式のスピーチの原稿と苦闘するシャ-ロック。

 

オープニング

イカー街221B

ジョンとメアリーの結婚式の朝

ヴァイオリンが聞こえている。ハドソンさんがお茶を運んでくる。

ドアをあけるとシャーロックがダンスの練習をしている。

 

ここにはいくつかネタが。

ハドソンさんはシャーロックのためにテイーをいれてくれる。もちろんミルクティ。

お茶がひとりでに湧いてくると思っていたシャ-ロック。

子ども時代を使用人がいる家で育ったと想像できる。

お母さまは言いたいことがたくさんがあるでしょうね、とハドソンさんが言うと

「僕には質問リストがある。マイクロフトにはファイルが」。

シャーロックには、リストがある。

 

ハドソンさんの結婚観がのべられる。結婚で人は変わるわ。親友のマーガレットは私のブライズメイド(花嫁付き添い人)で、永遠の友情を誓っていたのに、一時代の終わりね、と泣いてたわ。式を途中で帰ってしまって悲しかったわ。

ジョンも変わってしまうのだろうかと不安になるシャーロック。

 

シャ-ロックは、今は座る人のないジョンの椅子をじっと見つめる。

 

いざ、戦闘へ。部屋にかけてあるモーニングを手にするシャーロック。

画面が変わり、同じように支度をしている男性の姿。軍服を着るその人の手や顏には重い火傷の跡が残る。

 

教会前

新郎新婦の写真をとるとカメラマンに言われて、一緒に並ぶシャーロック。

ここは、シャーロックとしては当然三人だったのだけれどね。

 

ブライズメイドのジャニーンとの会話  

教会前にいる男性をシャーロックが品定め。ジャニーンは、あなたって役にたちそう。

シャーロックは、え?今なんて?とちょっととまどう。

シャーロックを会ったとたんに評価するのは何人目? おそらく、ジョン、メアリに次いで三人目だ。三番手につけているジャニーン。

 

披露宴会場前

ディビットがメアリーに挨拶。

少し前のベーカー街221b

シャーロックはデイビットがメアリーと二年間つきあっていたたことをつきとめ、君を監視していると。シャーロックのベストマン(花婿付き添い人)としての使命感、ジョンのために、ジョンとメアリの幸福のために、動くことが自分の役割と考えている。

 

くるくるヘアのアーチー君がだきついてくる。

少し前に221Bで、シャーロックは犯罪写真を見せて交渉成立。アーチー君はリングボーイの役目を無事果たす。

舞台裏のお仕事を忠実にこなすシャーロック。

 

披露宴会場

モリーはトムと幸せそう。レストレードは一人で出席。

 

会場に入っても、ジャニーンのためにシャーロックの品定めは続く。

これからもお願い、とジャニーン。犯罪は好き?とシャーロック。

相棒募集中?といわれ、シャーロックはジョンを見る。

 

そこへ軍服の男性がはいってくる

ジョンは、これは驚いた、と大喜び。

 

シャーロック:あれが噂のショルトー少佐? なぜ話にでない?

メアリー:私には彼の話ばっかり。

え、メアリーには話しているんだ、とちょっとブルーなシャーロック。

 

ジョン:今はどこに?

ショルトー少佐:何もないところだ。言ってもわかるまい。

 

メアリー:世捨て人よ。ジョンの知る中で一番非社交的だって  the  most  unsociable

シャーロック:え?  一番非社交的?

だからジョンは子犬みたいに興奮を

 

シャ-ロックはちょっと悲しそうだ。

メアリーは、シャーロックのジェラスがいじらしくて思わずぎゅっと腕を組む。

 

メアリー:ああ、シャーロック、私たち二人ともジョンの"  一番  "じゃないのよ

Neither  of  us  were  the  first.

 

なんとも、大人なメアリー。

メアリーは暖かくて包容力がある。ジョンにとって一番なのは当然メアリーのはずなのに、とり残されたように感じているシャーロックを思って自分たちは同じ、と安心させようとする。

シャーロックの子どもっぽさと、メアリーの成熟した優しさの対比が見事に描かれているシーンだ。

 

マイクロフトの家

芝生の先にある木立の向こうに車が走っていて、都市近郊とわかる。

 

マイクロフトはトレーニングマシンでエクササイズをしていたところ。

シャーロックから電話がかかってくる。

車かプライベートジェットを使ってでも披露宴へ来いというシャーロック。

 

マイクロフト:君と会う時間が増えるな。昔に戻る。一時代の終わりだ

 

繰り返されるメッセージ。

いや、新しい章の始まりだ、とシャーロック。

 

普通の人たちは結婚するものなんだ、警告しただろう、深入りするな、とマイクロフト。

シャーロックが電話を切ろうとすると

 

マイクロフト: 赤ひげReabeardを覚えているか?

シャーロック: 僕はもうこどもじゃない

マイクロフト: 深入りせず楽しめ

 

この赤ひげの謎は物語の最後まで続いていく。

 

私たちは普通の人たちとは違う。だから普通の人とは違う生き方がある。普通の人たちとかかわるな、というのはマイクロフトなりのシャーロックへの愛情の表現だ。危なげなシャーロックを守りたい大人の兄。

いつでも、、あのS1E1からそうだった。

 

自ら望んで孤高の道を行くマイクロフト。普通の人であるジョンとの友情を育むシャーロック。作り手は、二つの生き方を常に比較しながらどちらも否定することなく、愛情を持って表現している。その多面的世界が、この作品をより豊かにしている。