この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S2E2-1

シーズン2  エピソード2  

バスカヴィルの犬(ハウンド)

 

f:id:knancy:20191012162844j:plain

 

 脚本:マーク・ゲイテイス

監督:ポール・マクギガン

 

シャーロックの「若さ」「未完成さ」が、際立つ作品。

原作「バスカヴィル家の犬」は、小説としても映像作品としてもよく知られている。ゲィティスは、ここでは、それとまったく別の世界を作りあげた。その推理部分も面白くはあるが、また視聴者を怖がらせる趣向も成功しているとは思うが、それにも増して、S2E2全体を通して、シャーロックの形成途上の未完成さ、あやうさが描かれ、S2E1とも共通する魅力となっている。

尚、原題は、The Hound of the Baskervilles  バスカヴィル家の犬。

このドラマシリーズでのタイトルは、The Hounds of Baskerville   バスカヴィルの犬(ハウンド)。

 

 

イカー街221B

退屈を我慢できないシャーロック、依頼人がきて事件解決に出かけるまでシャーロックとジョンが交互に描かれる。

冒頭、数種類の新聞を読んでいるジョン。タブロイト誌には鹿撃ち帽のシャーロックの写真とともにnet phenomenon、「ネットのスター」の見出しが踊る。S2E3への伏線。

 

タバコの禁断症状で苦しみ、部屋中ひっくりかえしてスリッパの中も探し回ったあげく、ジョンに  please  と懇願するシャーロック。

もちろんジョンはダメ!ジョンは完全に世話係になっている。いや、ジョンの表情をみれば、むしろ子守役の様相だ。

ハドソンさんにも八つ当たり。

7%strongerが必要。ここではこれ以上説明されないが、後の回まで見ていくと、コカインの7%水溶液。原作でもホームズが使っているが、このドラマシリーズではまた特殊な使われ方をする。

あ、よい子のみなさんは決してマネをしてはいけません。

 

webはどう?というジョンの問いでネットを見て、身体が光るウサギが失踪したブルーベル事件の依頼に興味をもつシャーロック。伏線。

 

シャーロックが部屋をほっちらかすものだから、221Bの暖炉側がゆっくり見られるのも嬉しい。いかにもヴィクトリアンな壁紙とカーペット。そしてシャーロックの椅子は、コルビジェLC3。座り心地よさそう。

 

依頼人、ヘンリー・ナイト登場。20年前にダートムアのDewer’s Hollow(悪魔の穴)という窪地で黒い毛並み、赤い目をした巨大な魔犬に父が殺されたという。彼は子どもの時、魔犬によって父が殺されるのを目撃してトラウマに。そして昨夜その同じ場所で巨大なhoundの足跡を見たという。

 

馬鹿にした口ぶりのシャーロックに腹をたてて帰ろうとするヘンリ-、それをシャーロックはヘンリーの今朝からの行動を推理してひきとめる。ジョンにたしなめられるが、自分の推理を披露したくてしかたないシャーロック。賞賛が必要だからね。

シャーロックはヘンリーが口にしたHoundという言葉に反応して事件を引き受ける。

 

ヘンリーとの話の中ででてくるイギリスのコーヒーは、電車の中でなくても確かにまずい。電車の中ではない店だったけれど、どろどろの濃いコーヒーにお湯をいれてお客に出すのを見たことがある。だから、シャーロックはコーヒーには砂糖二つなのかも。

このコーヒーネタはこの後へ続いていく。

 

ダートムア、グリンペンへ

二人が乗るのは黒のLand Rover。シンプルで機能的でステキ。

シャーロックが運転している。コメンタリーでゲイテイスが、シャーロックは運転免許を持っていないかもしれないが、運転しようと思えば一日でできる、と言っていた。イギリスには路上試験はないのか?

 

初めてロンドン以外の風景が画面に映し出される。イギリスではどこでも車で数十分走れば街を出てすぐに芝生と羊しかいない風景に変わる。どこへ行っても美しい森と緑の光景にあえる。スコットランド北部や海岸沿いは個性がある風景が広がるが、それ以外の内陸部の田園地帯の風景はあまり大きくは変わらない。芝生が途切れると広陵とした草原が続き、そこにどこまでも続くフットパスが作られている。自然はあるがままに。人工的なものは極力少なくしてそこにある自然を楽しむのがイギリス流なのだろう。

ダートムア国立公園は、その中でも荒々しい岩が露出する特徴ある景観だ。残念ながら行ったことはないが、なだらかな丘陵が続くイギリスの風景の中では特異だから、人気のあるスポットに違いない。

 

Cross Keys Inn

車がグリンペンへ入っていく。グリンペンは架空の町。

蜂蜜色の茅葺き屋根の家が残る。茅葺き屋根コッツウォルズが有名だが、古いものに価値があると考える国民性だから茅葺きにしてもスレートにしてもそう簡単に風景が変わらない。だからロンドンの変貌は非常に際立っている。

 

Innの前には魔犬観光ツアーの観光客が集まっている。

Innには宿とベジタリアン料理のレストラン。オーナーは年齢差のあるゲイカップルだ。シャーロックとジョンもお約束のゲイネタ。ベジタリアンメニューの店のはずなのに、Undershaw Meat Supplies(アンダーショウ精肉店)と書かれているinvoice納品書があるのを、ジョンがみつける。

 

Innの前にいた魔犬ツアーカイドのフレッチャーをつかまえてシャーロックは魔犬のことを聞き出す。フレッチャーは携帯電話の写真を見せて魔犬を見たと言い、軍のバスカヴィル研究所で極秘に行われている動物実験のことを話して、実験動物が逃げ出した可能性をほのめかす。

 

ここのコメンタリーが面白い。このフレッチャーというのは、魔犬伝説に詳しいドイルの知人のジャーナリストの名前。ドラマの中でフレッチャーが語っている動物実験の話は、ゲイテイスが二年前のクリスママスパーテイで友人から聞いたものをそっくり使ったそうだ。

それを人々がだまされやすい政府陰謀説conspiracy theoriesに仕立てた、現代人は幽霊よりも隠された秘密のほうが恐ろしいと考える、と。

さらに、UFOマニアに陰謀説を流されるのは政府にとって都合がいい、真の問題から大衆の目をそらすことができるから。一部の人間を変人扱いすることで真実を隠しておけるからだ。だから政府は彼らオタクgeeksを歓迎する、とも少し後の場面で付け加えている。

 

モファットとゲイテイスは自他共に認めるgeeksだから、この言い方はある意味自虐的にも聞こえるけれど、ここまで分かった上で視聴者を確実に怖がらせるべく、政府陰謀説のドラマを作ってしまうところは、もはや確信犯というしかない。

 

その2に続きます。