この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S2E1-5

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イカー街スピーディズカフェ

マイクロフトがアイリーンの資料をもってきてジョンに渡す。

アイリーンはアメリカの証人保護プログラムのもとにいる、と言うのが公式。

しかし実際は二ヶ月前にカラチでテロ組織に殺された。これは確実だ、シャーロックがいれば別だろうが、とシャーロックへの伝え方をジョンに託す。

 

弟は海賊になりたがっていた、とは、物語の最後まで続くマイクロフトの心の奥底の風景。

 

 

イカー街221Bキッチンラボ

顕微鏡を覗いているシャーロック。

ジョンは、迷いながらアイリーンはアメリカにいるとシャーロックに伝える。だからもう会えないと。

一見興味のなさそうなシャーロック。

しかし、顕微鏡を覗きながら、アイリーンの携帯電話がほしいと断固としてゆずらない。

 

2カ月前、カラチ

テロリストに捕らわれたアイリーンの処刑の直前、あわやというところでアラビアのロレンスみたいなシャーロックが現れ、

 

僕が走れ、と言ったら走れ!

When  I  say  run,  run !

 

アイリーンは危機一髪、死をまぬがれる。

 

イカー街221B

雨ふる窓辺でシャーロックはフっと笑い、アイリーンの黒い携帯電話を引き出しに入れる。

アイリーンの思い出を記憶の奥深くしまうように。うまくいったという微笑か、我ながらよくやったものだというシニカルな自嘲か、たぶん両方なのかも。

 

シャーロックは最後に、

The(ザ) woman, The (ディ)woman. とつぶやく。 Thee woman にも聞こえる。

 

二つめの  The  woman   は字幕では「比類なき女」、となっていた。

延原謙訳、新潮文庫版では「あの女(ひと)」

 

あの人、あの特別な人、という感じだろうか。

 

物語の最初に、マイクロフトの言葉の中で出てきた  The  woman、あの女。

中盤で、部屋のベッドで目が覚めたシャーロックが言う  The  woman  あの女。

そして、物語の最後で、シャーロックがつぶやく、The  woman  あのひと。

同じ言葉がシャーロックの気持の変化を表して

いて、見事。。。

 

もう会えないあの人との別れを悲しむように雨が降り続く。

 

カラチの夜

カラチの後の二人については諸説あるようだ。ベネデイクトは、どこかのインタビューでアイリーンは得意の分野でたっぷりお礼をした、と語ったらしい。

またモファットは、アイリーンは助けられた後、ありがとね、と言ってシャーロックの服を奪って男装して逃げた、という案もあったと言っていたと思うのだが、出典がどこだったか確認中。

 

この後、何があったのかというのは、それこそ、見ている人の数だけ可能性はある。

 

私がどう思うか?普通の状態ならもちろん何もない。シャーロックだからね。

だがアイリーンは死の淵に立たされていた。シャーロックも命がけだ。そういう時、人は平常心ではいられない。

なので何かあった方が人間らしいと思う。その方が物語の終わり方として暖かい。

ここは、ディープなシャーロキアンの方たちと感覚が違うように思う。

 

ま、そういうのが無いのが、シャーロックらしいということもあるけど。何かあったとしても、それはそこで終わり。

そしてマイクロフトまで目くらましされるようなやり方で、アイリーンの存在自体を世界から消す。もう二度と再び会うことは無い二人。

 

さて、ここで一つだけ書いておきたい。

シャ-ロックはなぜアイリーンに惹かれるのか。頭がよい美女、だがそれだけではない。

 

アイリーンはなぜ悪女となったのだろう?

おそらく過酷な星の下に生まれた。その日一日を生きることだけを支えに貧困から抜け出し、今の富を築いた。誰の力も借りず自分の才覚だけで生きぬいてきた。裏切り、裏切られ、おそらく心から信頼できる友人もいない。

 

その恐ろしいまでの孤独。それと同時に、孤独に打ち勝つ強靱さも持ち合わせているはず。そしてその強靭さの裏側には、感じやすい心を隠し持っている。

 

またアイリーンが相手にするのは政治家、上流階級、その裏の世界だ。それらをあがめるのではなく、完膚なきまでに無価値にすることで彼女の生はなりたっている。

 

 ベルグレーヴィアでの勝負のシーンは象徴的だ。自分そのものが最高の武器。そんな人に惹かれずにはいられない。シャーロックも、そして私たちも。