この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S4E3-5

f:id:knancy:20200208095123j:plain

 

マスグレイヴの館

シャーロックが館に入ると大きなスクリーンにユーラスの顔が映し出されている。

 

シャーロック:  飛行機は?

 

 

スクリーンのユーラス: またペットを溺れさせたい?

マスグレイヴの儀式の謎を解く時がついにきたわ。あなたの最初の事件。そして最後の問題よ

 

ジョンのいる井戸に水が流れこんでいる。

迷子の私、誰がみつける?と歌うユーラスの声が聞こえる。

 

スクリーンには井戸の映像。

 

シャーロック: ジョン、大丈夫か?

 

傾く飛行機と、水が流れ込む井戸の映像が交互に。

 

スクリーンのユーラス:  

なかなかよくできた問題だったわ、あの歌は

なぜ解けなかったのかしら

感情的なつながり  Emotional cotext

さあ、来たわよ

 

ジョン:  僕の見つけた骨は

 

シャーロック:  犬の赤ひげの骨だ

 

ジョン:  マイクロフトは嘘をついてたんだ。僕たちに。犬の骨じゃない

 

スクリーンのユーラス: パパのアレルギーを覚えてる? あなたがどんなに頼んでも、犬は飼わせてもらえなかった

記憶っておかしなものよね。動転したあなたは、物語を都合よく書きかえた

 

アイリッシュセッターが川辺に座っている。

だが、そこにいたのは、黒い眼帯をして刀をもつ少年。赤ひげは、犬ではなく少年だった。

少年は、ユーラスを遮るように振り返る。刀を持って走っていく二人を見送るユーラス。

 

シャーロックは、赤ひげが、犬ではなくヴィクター・トレヴァーという少年だったことを、ついに思い出した。

 

本当の記憶を取り戻したシャーロック。

これこそ、ユーラスがシャーロックをネズミのように実験台にし、感情を痛めつけてきたゴールだ。そして、その先にあるのは。。

 

井戸の中で、ジョンが手に持ち見つめるのは、小さな、人間の頭蓋骨。

 

シャーロック:  ヴィクター・トレヴァー

海賊ごっこをした

 

川辺で二人に取り残される小さなユーラス。

 

シャーロック:   僕が黄ひげで、彼が赤ひげ

 

シャーロックの目に涙が溢れる。

 

スクリーンのユーラス:

二人はいつも一緒だった

私も一緒に遊びたかった

 

シャーロック:  彼に何をした?

 

ユーラスは、あの歌を歌う。

 

シャーロックと小さなシャーロックが交互に映る。シャーロックも小さなシャーロックも悲しい表情。二人とも泣いている。小さなシャーロックはヴィクター・・と。

 

スクリーンのユーラス:

あなたの人生にはいつも底の深い水が

夢の中でも深い水が

 

S1E3のプール、ライヘンバッハの滝。

シャーロックの頬を涙が伝う。

 

シャーロック: 彼を殺したのか

僕の親友を

 

スクリーンのユーラス:

私に親友はいなかった

誰もいなかった

 I had  no one.

 

川辺に立つシャーロック

小さなユーラスは、青いおもちゃの飛行機を手に持って一人で遊んでいる。小さなユーラスの声が画面に被る。

 

一緒に遊んでシャーロック

 

スクリーンのユーラス:

誰もいない

私のそばには誰も No-one.

 

あの不思議な墓の映像。

NEMO HOLMS

NEMOは、no oneと同じ意味だ。

 

シャーロック:  わかった。一緒に遊ぼう

 

シャーロックは屋敷の外へ走りだす。

 

墓地

飛行機の少女と、井戸で溺れそうなジョンが交互に。

 

シャーロック:

歌詞に数字をふり、

墓石の数列どおりに並べかえる

 

ここは、いかにも謎ときらしいところ。

1818  Aged   24 and 26

 

NEMO  HOLMSの墓石には1617 1822の文字。

Aged 32

 

画面に

1520 1818 2429 1617

134  1719

289  1520

 

1818  2426

1617  1822

32

が見える。

 

シャーロックの頭の中で作られた文章の文字が画面の中で落ちていき、最後に残るのが

 

 I     am lost  

Help      me  

   brother

 

Without your love

Save

My soul seek  

   my

room

 

私は迷子

私を救って、兄さん

あなたの愛なくば

私の魂を救って

私の部屋を探して

 

歌詞に数字をふってみよう。

I    that    am    lost,

1      2       3          4

 

oh  who  will  find  me?

5      6     7      8      9

 

Deep   down     below

10          11          12

 

thd  old   beech  tree

13     14    15    16

 

Help succour   me    now

 17       18        19      20

 

the  east    winds   blow

 21    22       23      24

 

Sixteen   by    six,     brother,

 25        26      27      28

 

and  under  we  go!

29     30     31    32

 

Without  your love,

1             2       3

 

he'll   be gone before

4        5      6        7

 

Save  pity  for  strangers,

8          9    10        11

 

show love the door.

 12    13     14    15

 

My soul seek

 16   17    18

 

the   shade of   my willow's bloom

19     20      21  22       23    24

 

 Inside, brother mine

25           26       27

 

Let Death make a room.

28   29      30     31    32

 

歌詞には後半があるが、細かい字で表示され読みにくい。

 

134  1719

289  1520 で、

1、3、4   は I   am   lost

17 は Help

19 は   me

28  は   brother

 

8はSaveになるが、年号は?1818?

 

1617は、

16  my

17  soul

 

1822   32 は、

18   seek

22  my

32  room

 

となり、あの不思議な墓の数字、

1617  1822   32 がキーになっている。

 

駆け出すシャーロック。屋敷の中へ。

井戸のジョン、飛行機の少女が交互に。

 

マスグレイヴの館

シャーロックは屋敷の階段を駆け上がりながら:

君の名前を教えて

 

飛行機の少女:

知らない人に教えちゃいけないの

 

シャーロックは飛行機の操縦席の扉をあけながら:

僕は知らない人じゃない

君の兄だ

 

飛行機の操縦席の少女が振り返る。

 

マスグレイヴの館の二階

シャーロック: 来たよ、ユーラス

 

そこにいたのはユーラス。

飛行機のシーンは高速で巻き戻され、冒頭の青い目に。青い目はユーラスの目だった。

 

ユーラス:

遊んでくれるのね、シャーロック

ゲームを

 

私は落ちる飛行機の中にいる

兄さんが助けにくるの

 

ユーラスの声は、怯えた少女のような声になる。ユーラスは、大人になった今も、心は五歳の時のままなのかもしれない。シャーロックと遊んでほしかった、でも、シャーロックに遊んでもらえなかった五歳のユーラス。

今、何十年も待って、やっと一緒に遊んでもらえたのだ。長い間待っていたゲーム。

 

シャーロック: 君の素晴らしい頭脳が完璧なたとえを作りだした。何でもわかるのに、着陸の仕方だけがわからない

 

僕はただのバカだ。だが、地上にいる

君を家へ連れて帰る

 

ユーラス: ダメよ、無理だわ

もう遅すぎる

 

ユーラスは泣きながら:

目を閉じるたびに

私は飛行機に乗っている

空の上で途方にくれているのに誰も気づかない

 I'm lost,  lost in  the  sky and ...no-one can  hear me.

 

シャーロック: 目をあけてごらん

僕がいる 

もう独りじゃない

 

そういうと、シャーロックはユーラスを抱きしめる。

 

マイクロフトが言っていた、シャーロックが選んできた全ての道がユーラスの記憶だ、という言葉はここにつながる。

誰よりも孤独を知るシャーロックだからこそ、ユーラスを抱きしめることができた。

 

このドラマシリーズで、好きなシーン、心に残るシーンはたくさんあるけれど、一番心が動かされたのはこのシーンかもしれない。

 

二つの孤独が重なりあった瞬間にユーラスの氷の世界は融解する。

 

あの時はちょっとやり方をまちがえてしまったけど、今度は正しくやろう

助ける方法を教えてくれ。ジョン・ワトソンを助けたいんだ

 

抱きしめられながら涙を流し続けるユーラス。

 

シャーロックはヴィクターの記憶を取り戻し、本当の記憶を取り戻した。それはユーラスが長い間待ち望んだことだ。兄の愛に包まれた瞬間。ユーラスが何よりも欲しかったものだ。

だが、愛に包まれた幸せな瞬間は永く続かない。

 

屋敷の外

井戸に光が当てられ、綱が投げ込まれる。間一髪で、ジョンは助け出された。

 

ユーラスは、ポリスに連行される。ヘリコプターの音が聞こえる。ユーラスは再びシェリンフォードへ。

 

ここでメインのストーリーは終わる。

 

普通は、ここからエピローグが始まり、次の物語へ続いていく。だがS4E3は、

ユーラスの物語のエピローグと、ドラマシリーズ全体のエピローグが重なっている。ここから後は、映像の順序通りではなく多少、整理して書いてみよう。

 

次のシーンは、

S4E3のエピローグと全体のエピローグが重なっている。

 

レストレード:

マイクロソフトは動揺しているがケガはない

閉じ込められていただけだ

 

シャーロック: マイクロフトのこと、よろしく頼む。ヤワなのに、自覚ないから

 

レストレード: ちゃんと目をくばるよ

 

シャーロック:ありがとうグレッグ

 

と、初めて正しい名前を呼ぶシャーロック。

ドラマシリーズの最後で、やっと正しく呼んでもらえた。

 

ポリス:  シャーロック・ホームズ氏ですね

偉大な方ですよね

 he's a great man

 

レストレード:  偉大って以上に、いいヤツだよ

No, he's better than that.

He's a good one.

 

この台詞は、S1E1で、レストレードが言う台詞とパラレルになっている。

 

ここから後しばらくは、S4E3のエピローグ

 

ジョン:  大丈夫か?

 

シャーロック:  連れて帰るって言ったのに

できないんだ

 

ジョン:  君は彼女が望んでいたつながりcontext

を与えたんだ

 

シャーロック: いいことか?

 

ジョン: いいか、悪いか、というより

それが現実だ  It is what it is.

 

ずっと繰り返し使われてきたつながりcontextという言葉。contextという抽象的な言葉の意味はストーリーの中で説明されてきた。

 

ユーラスの言葉の中にあった

感情的つながり

状況のつながり

人間関係のつながり

 

その全てを奪われていたユーラス。

それを手に入れるためにモリアーティの手を借りた。

なぜ、最後までモリアーティを引っ張るのか、やや疑問だったのだが、 S2E3では、はっきりつかなかったゲームの勝敗が、この S4E3で決着がつく。

ホームズがホームズを殺す、とゲームの行方を読んでいたモリアーティ。モリアーティの力を借りた ユーラスは、シャーロックが第三の選択肢を選ぶことを予想できなかった。context をもたないユーラスに、シャーロックの心の動きはわからなかったのだ。

死後のゲームはシャーロックの勝ち。

 

ゲームはさらに続く。

シャーロックがユーラスを思いだし、ヴィクターの記憶を取り戻し、本当の記憶と本当の自分を取り戻したところまでは、ユーラスの勝ちだ。

だが、ゲームはこれで終わりではない。

ユーラスが感情を持った瞬間に、ユーラスは再び心を閉ざしてしまう。

 

シャーロックがゲームに勝ったのかと言えば。。

兄としての愛、兄妹というつながりcontext  を与えることはできたが、ユーラスを家に連れて帰ることはできなかった。そして、ユーラスを再び失ってしまう。

シャーロックも、また、ゲームに勝ったとは言えない。

ゲームに、勝者はいない。

 

S4E3では context がキーワードになっているが、その対に使われているのがno oneだ。

物語冒頭に登場した不思議な墓に刻まれたNEMO=NO ONEという文字。終盤で、ユーラスを象徴する言葉だということがわかる。

context とno one が何度も繰り返され、context  を奪われたユーラスの孤独が浮き彫りになる。