この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

SherlockS1E1-1

シーズン1  エピソード1

ピンク色の研究

 

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脚本:スティーヴン・モファット

監督:ポール・マクギガン

 

ベネディクト・カンバーバッチ(シャーロック・ホームズ)

マーティン・フリーマン(ジョン・ワトソン)

 

原題はA  Study  in  Pink.  原作 A  Study  in  Scarlet  から。

この回は記念すべき始まりの始まり。S4E3で、私たちがよく知っているあの二人組が誕生するのだとすれば、この回はシャーロックとジョン、二人のそもそもの出会いから始まる。

重要な登場人物が勢揃いして、人となりや関係が示される。

だけどまあ、S4まで見てきてこの回を見るとなんとシャーロック、いやベネディクトの若くて美しいこと!そしてなおかつ言えるのはパイロット版とのシャーロックの造形の違いだ。パイロット版のシャーロックは、30歳前だろうか?パイロット版が2009年だから、わずか1年で、シャーロックの影の部分、危ないあやうい部分まで描きだしているのは本当にすごい。

 

 

ラッセル・スクウェア公園

マイク・スタンフォードが、歩いてきたジョンに声をかける。フラットシェアをすすめる。

 

原作では、ジョンとマイクはクライテリオン酒場で会う。なので、ここではジョンがわざと文字をカメラに写るように持っているのが、ご愛嬌。カップに、Criterion  の文字。

 

聖バーソロミュー病院(バーツ)

バーツの解剖室でシャーロック登場、遺体を鞭打っている。ここは、コメンタリーで、わざわざゲィティスが  mortuary  遺体安置所ではなく、解剖室、と言っている。

 

スクリプトでは、シャーロックの初登場はこう描かれている。

 

early thirties,  tall,  lean,  imperious.

He is  plainly  but  neatly  dressed.

30代前半。背が高く、痩せ型、横柄。地味だが、きちんとした服装。

 

なるほどね。これを三次元化するとベネディクトになる。

 

モリー:  あの、もしよかったら、後で

シャーロック:  その口紅は? 前はつけていなかった

モリー: あ、後でなおすわ

 

モリー: コーヒーでも、と思ったの

シャーロック:  ブラックで。砂糖は二つ。僕は上にいる

 

シャーロックは部屋を出ていく。

モリーは、一人残され。。

 

モリー:  OK..

 

コーヒーをというモリーに、上にいるからもってきてというシャーロック。がっかりしながらOKというモリーモリーは仕事の後、一緒にコーヒーをのみにいきましょうと誘ったのに、その気持にまったく気づかないシャーロック。

 

パーツのラボ

マイクがジョンを連れてくる。

シャーロックはジョンに、アフガニスタンイラクか、と聞く。

ジョンは、アフガニスタンだけど。。と。

 

モリーが、コーヒーを持ってくる。

 

シャーロック:  ありがとう

シャーロック:  口紅は?

モリー: わたしには似合わなかったわ

シャーロック:  進歩だと思ったけど。君は口が小さいから

モリー:  OK..

 

ジョン:  どうしてアフガニスタンだってわかったんだ?

シャーロック:  君は軍医でアフガニスタンから帰ってきた。兄がいるが、助けを求める気はない。アル中だからかも。最近奥さんと別れたし。セラピストは、君の脚は心因性だと思っている。

 

マーテインは、コメンタリ-の中でもリアクション王と呼ばれているくらい表情豊かで細かな感情表現が何とも素晴らしい。ここではシャーロックの見事な推理に、あぜんとしている。

 

さあ、いよいよイカー街。カメラは上から下へスパンしていく。

ジョンに遅れて到着するシャーロック。

ここで、とても親密なハドソンさんとのハグ!ハグはパイロット版のほうがさらに親密さが表現されていた。イギリス人男性は、特に階層が上になるほどおおっぴらな愛情表現はしないのが普通だ。だからここで二人が特別に親密であることがわかる。後でキスもするしね。

 

ハドソンさんの謎は最後まで説明されないので結局わからないのだけれど、遠くにいっていて久しぶりに帰宅した息子か甥っ子を迎えた時の様な感じだ。この後何回も繰り返される「私は家政婦じゃないのよ」もヒントなのかもしれない。お母さまに言わなくちゃと文句を言いながら、もうシャーロックったら、と結局部屋を片付けるハドソンさん。段ボールがいくつもそのままになっていて荷物が運び込まれて間もない様子なのに、家族みたいに見える。

 

階段を先にあがり、ジョンがあがってくるのを待ってドアを開けるシャーロック。

 

ハドソンさんのゲイネタに続き、スコットランドヤードのレストレード警部がシャーロックに、連続殺人の捜査の依頼にくる。シャーロック、くるくる回って大喜び。It's Christmas!と。少年のよう。

シャーロックが出ていった後、ジョンが読んでいるのはタイムズ。日本の朝日新聞をもう少し固くしたような感じだ。

 

出かけたはずのシャーロック、もう一度戻ってくる。

 

シャーロック:  たくさんのけが人、ひどい死体も見てきたね

ジョン:  一生分、見た

シャーロック:  もっと見たい?

ジョン:  もちろんだ!

 

ジョン:  何だろう、これは? What  is  this ?

僕は興奮してる? Am  I  excited  ?

 

シャーロック:  The  game, Mrs. Hudson, is on !

 

こうして、二人は221Bを飛び出していく。

 

事件現場へ向かうタクシーの中。

フロントガラス越しのショットが美しい。車の外のバスや店の文字が画面に写り込む。

 

 この車の中での会話。ジョンの姉(この時はまだ兄として説明)ハリーについての 推理を披露するシャーロック。唖然とするジョン、ちょっと口をあけて。。amazing、見事だったよと。

 

この時のシャーロック、パイロット版ではもっとゆっくりと反応していて見ていてすぐわかった。S1E1では数秒の演技でわかりにくい。

 

Sherlock glances at him--a litte surprised,a little pleased. Like  he's  not usued to that reaction--and is really rather pleased by it.

 

なるほどこれは難しい。シャーロックは一瞬動きをとめて、目を左右に動かして驚く。

 

いつもの彼らしくもなく、ほんの少し驚き、ほんの少し喜ぶ。本当はもっとずっと喜んでいる、とスクリプトに。

 

シャーロック:本当にそう思う?

ジョン:  もちろんだよ。まったくもって素晴らしい    Quite extraordinary

シャーロック:  みんな普通はそんな風に言ったりしない

ジョン:  みんなは普通なんて言う?

シャーロック: うせろ  Piss  of !

 

シャーロックがたぶん物心ついて初めて自分が理解された、と感じることが出来た瞬間だった。シャーロックとジョンの、これからの関係ができていく最初のシーンだ。

 

ジョンはこの後もずっと誠実なよき聞き手になっていく。天才ではない私達にも必要なように。その関係の記念すべき始まりだ。

 

その2へ続きます。