この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock sp-3

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プライベートジェット機

退屈しのぎと思考力を高めるためにドラッグを使う、というシャーロックに、

 

(リストを見て)  死んでしまうぞ、と怒るジョン。

 

メアリーは、携帯電話でエミリアリコレッティ事件を調べる。M. I. 5のセキュリティーを軽々と破り、エミリアの事件は未解決と報告する。

 

 

すごい!有能なメアリー。

 

マイクロフト :  以前お前を助けた

また力になる。いつもお前の味方だ

 

そして、私のせいだ、とつぶやくマイクロフト。

 

ジョンのモルヒネかコカインか、という言葉で

19世紀へ

 

イカー街221B

ホームズ:  僕はジェット機に。君とマイクロフトもいた

コカイン。7 % の水溶液だ

 

ワトソン:  事件解決に薬物は使わないと約束しただろう!

 

ホームズに厳しいワトソン。

 

そこへアーチーくん、いや、ハウスボーイのビリーが電報をもっくる。

電報を見てメアリーが危ないと言うホームズ。

ホームズとワトソンは、馬車で廃教会

A desanctified church へ。

 

廃教会

メアリーと合流。メアリーは、ホームズより先に犯人を見つけていた。ホームズより優秀なメアリー!

 

ワトソン:  ここで何をしてるんだ?

メアリー:  彼 ( ホームズ  ) じゃなく、賢い方The clever one  に頼まれて事件を調べていた

看護婦は優秀なの

 

メアリー:  鈍い弟でいるのは辛いでしょうね

 Must be difficult  being the slow little brother.

 

こら、シャーロック、どこまで劣等感にとらわれているのか。

 

廃教会に集まっていたのは19世紀に虐げられていた女性たち。連続殺人事件も、サー・ユースタスを殺したのも、彼女たちの共同戦線だった。

 

犯人は、その時代に虐げられていた多数の女性たち。モリーやジャニーンもいる。女性の衣装が、KKK を彷彿とさせることもあり、イギリスのフェミニスト団体が抗議したらしい。

しかし、ゲィティス自身がゲイだし、彼らが女性を漫画的に描くとも思えない。

従って、この犯人像は、シャーロックの男性としての加害者意識の裏返し? ジャニーンにはひどいことをしたしね。モリーにも悪いことをしたと思っていたのか。。

このストーリー自体がシャーロックの頭の中のことなので、物語全体が奇妙に歪んでいる。

 

そこに現れるのはモリアーティ。

 

また、現代へ

エミリアリコレッティの墓を掘りにいくシャーロック、替え玉の遺体があるはずだと。

 

墓地

ジョンはメアリーを連れて、いや、メアリーがジョンを連れて墓を離れる。結局、レストレードだけが力仕事を手伝う。マイクロフトはそばで懐中電灯持ち。レストレード、いいヤツだね。

 

棺の中には一人の遺体。替え玉の遺体を探してさらに棺の下を掘るシャーロック。棺の遺体がシャーロックに襲いかかる。ちょっとだけホラーで、サービス。

 

つぎは19世紀のライヘンバッハの滝。

ついに、原作で、ホームズがモリアーティ教授と共に落ちたライヘンバッハだ。

 

ライヘンバッハの滝

モリアーティ :  深みにはまりすぎたな

君の頭の中では僕は死んでいない

自分の脳を記憶装置といったな

僕はウイルス

ここが我々の墓場

いつもここ、いつも一緒

 

滝でホームズとモリアーティ、一対一の格闘。

 

モリアーティ  :  僕は君の弱点!  

一緒に落ちるか?

最後は、いつも君と僕なのだ

敗北を認めろ

 

そこへ銃を手にしたワトソンが現れる。

 

モリアーティ:  二人なんてずるい

ワトソン:  いつも二人なんでね

ホームズ:  ありがとうジョン

モリアーティ: 二人で駆け落ちすれば?

 

ワトソンがモリアーティを滝に突き落とす。

初歩的だよ、ワトソン君。名セリフと共に滝を飛んでいくホームズ。嬉しそう。

 

シャーロックの深層心理の中で、ジョンは素晴らしく頼りになる存在。しかもいつも二人だ、と言ってくれるし。

シャーロックは、本当にジョンを信頼し尊敬し大切に思っている。思わず気持が溢れ出し、19世紀なのに、ジョン、に。

 

シャーロック自身が作りだしている亡霊=ウィルスであるモリアーティを、深層心理の中で殺したのはジョンだった。シャーロックにとって、絶対的に必要な存在。あらためて、それがここでわかる。

 

再びプライベートジェット機

マイクロフト、ジョン、メアリーがシャーロックを見守っている。

 

過剰摂取よ、とメアリー。

 

モリアーティが戻ってきた

 

リストの紙を破り捨てるシャーロック。

 

マイクロフト  : ワトソン先生、彼をよろしく

 

ここは、私のせいだ、というマイクロフトの前の言葉から繋がっている。シャーロックのドラッグを容認してきたマイクロフト。命の危険から守るため、目の届くところにいるよう行動を管理しようとしてきたが、また、使ったドラッグを必ず記録しておくように約束させたが、そのことが、結果として、シャーロックがドラッグを使うことを認めることになってしまったのだ。 

シャーロックにドラッグをやめさせることができるのは、ドラッグを許さない、シャーロックに厳しいジョンだ。

兄は、best friendに、シャーロックを託す。

 

マイクロフトは、シャーロックが破った紙を拾って手帳にはさむ。手帳に赤ひげ  Red Beard  の文字。

 

シャーロック:  モリアーティは死んだ、間違いない

それを確かめに行った

 

イカー街221B

ワトソン  :  空飛ぶ機械に電話装置だって?

ホームズ  :  未来とそこにいる君と僕を推測してみた

僕は時代の枠を超えた男

 

ホームズが見ている窓の外は21世紀。ベイカーストリート行き!の赤い二階建てバスが走る。

 

つまり、19世紀の部分はシャーロックのマインドパレス、現代の部分は、ホームズのマインドパレスというのが最後のオチ。

 

飛行機の中でマイクロフトがいう「いつもお前の味方だ」という優しい言葉には違和感があったが、19世紀のホームズのマイクロフト観を反映していると考えれば理解できる。原作では普通に仲の良い兄弟だから。

 

私はSFもファンタジーも全然OKで、自分が見ている世界を相対化する、という設定は、普通は大好きなのだが。。

 

このSPで、モファットとゲィティスは、二人の夢、19世紀のホームズとワトソン、そしてライヘンバッハを描いた。

 

ライヘンバッハの意味は、つまりは、シャーロックがモリアーティの死を19世紀に行って確信したということだ。

なぜ、エミリアリコレッティの事件かというと、死んだはずの女性が生きていて殺人をおこしたから。シャーロックにとって重要なのは、あくまでもモリアーティが本当に死んだかどうかだ。

リコレッティ事件の謎を一応解いた上で、ライヘンバッハへ。ここで、モリアーティが本当に死んだと確認する。

 

だが、いつものように、表の物語の進行と同時に、もう一つの物語が描かれているのを見落とすことはできない。

ライヘンバッハと同じように、丁寧に描かれている19世紀の列車の中の会話、温室の中の会話、21世紀のプライベートジェット機内の会話、長いドラッグリスト、あの短い回想シーン。これらは全て、シャーロックという人間を表現している。

 

S3E3で、CAMが見たシャーロックの急所に、「バスカヴィルの犬」が入っていた。S2E2はゲィティス、S3E3はモファットの脚本。このSPは2人の共同脚本だ。急所にいれてあるのは、モファットとゲィティスの「しかけ」と言ってもいいのかも。 

 

バスカヴィルは、理性の人シャーロックの弱さが重要なテーマだった。それをドラッグという形で表現しているのが、このSP。

名探偵をこんなにドラッグ漬けにしまって、どうなのかとは思うが、人物の造形としては魅力的だ。ドラッグは、シャーロックがどう言おうと ( 言い訳しようと) 、基本的に人間の弱さということだから。あ、シャーロックは、よくごまかしたり、はぐらかしたり、言い訳するからね。

 

全てマインドパレスの中の物語、つまり深層心理だとすると、表のストーリー自体は、何が何だかわからなくなってしまう。しかしバスカヴィルを含めて一続きのもう一つの物語、つまり、シャーロックの物語として見ていくと、若い時からドラッグに依存してきたシャーロックの姿が鮮やかに浮かび上がってくる。

10代の時から生きにくさを抱えてきたシャーロック。できすぎる兄、マイクロフトへの強いコンプレックスを含めて、果たして、ドラッグなしで生きることはできるのか?  

S4へ続く。。。