この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S4E1-1

 S4E1を再掲します。6月下旬に他サイトに転載、紹介していただき、ありがたかったのですが、一カ月少しで検索エンジンからブログの文章が読めなくなってしまいました。このブログは時事的な性格ではないので、それはちょっとばかり困ります。今後は、転載はご遠慮いたしますので、どうぞよろしくお願いします。

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シーズン4  エピソード1

六つのサッチャー   The Six  Thatchers

 

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 脚本:  マーク・ゲィティス

監督: レイチェル・タラレイ

 

原作は、「六つのナポレオン」、「黄色い顔」

 

さあ、問題のシーズン4まで来た。

シーズン4は、このドラマシリーズ全12話+sp  の最終シーズンとして、そして、何よりもシャーロックの物語として、最後を締めくくる内容になっている。

S4E1は、これまで散りばめられてきたいろいろな要素を受けて、物語が始まる。

 

プロローグ

S3E3で、CAMを射殺したシャーロック。6か月後に死が待つ東欧への潜入捜査は4分で終了。モリアーティのメディアジャックによって、マイクロフトからの電話で呼び戻される。

 

The  Cabinet  Office

70 Whitehall,  London  SW1A 2AS

D通告     100年

最高機密

 

By order of        E  Smallwood

 

D通告の審査会議。

このシーン。機密会議であることは確かだが。。。

 M I 6 での審議?

だが後で、レディスモールウッド、マイクロフト、サー・エドウィン、レディスモールウッドの秘書は特別なコードネームを持っていることがわかるから、M I 6を統括するような性格の機関であるようにも思える。

 

やるなあ、ゲィティス。

D通告 ( Defence  Notice )  はイギリスで1912年に成立。政府は機密保護のため、報道機関に対して、特定の報道を差し止めることができる。

ただし、これには強制力がないため、近年、強制力を持たせようという動きもあるようだ。

( Intelligence  News  and  Reports, 2014年1月28日)

 

シャーロックのCAM射殺をなかったことにする映像の捏造、報道規制は、トップシークレット扱いで、期間は100年だ。

 

最高機密以上の機密だ、とマイクロフト。ここにいる五人だけが知る。

そこにいるのは、マイクロフト、レディスモールウッド、サー・エドウィン、レディスモールウッドの秘書の四人。それにシャーロック。

 

マイクロフト:  事件は、D通告扱いとなった

この場にいるコードネーム、

南極  ( マイクロフト?  )

ラングデール、

ポーロック、

ラブ  (レディスモールウッド)

だけが真相を知る

それ以外は、首相も、さらに高位の方も・・

 

忙しくツイートしているシャーロックの携帯を取り上げようと小競り合いする兄弟。

シャーロックは、ジンジャークッキー ginger nuts を頬張り、上機嫌、饒舌。

 

あまりのテンションの高さに、レディスモールウッドは薬は抜けたのかと思っていた、というが、シャーロックはナチュラルハイだとかわす。

 

レディスモールウッドの秘書に名前を聞くシャーロック。ヴィヴィアンと名のる。伏線。

 

画面に  Appledore の外にいるシャーロック、ジョン、CAMが映し出される。画面が修正され、シャーロックは銃を発砲せず、CAMは意気込んだ兵士によって撃たれた、ということに改ざんされている。

真実と違う、というシャーロックに、マイクロフトは、新しい真実だ、と。

以降はこれが人々が目にする真実になる、とサー・エドウィン

 

モリアーティが発動する死後のゲームの開始を待つ、というシャーロック。

 

ゲームの開始は見逃さない

Because I  love it.

 

このシーンでのシャーロックは、あきらかにドラッグを使っている。

なぜか?

シャーロックは、マイクロフトから電話で呼び戻され、その後の自らの進退は、マイクロフトに委ねざるをえない。あったことをなかったことにするという方針は、間違いなくマイクロフトが起案しているだろう。

 

それはシャーロックにとって何を意味するだろうか。

このプロローグには、 S1E1から散りばめられてきたシャーロックとマイクロフトの立場や価値観の違いが集約されている。

 

 S1E1の終盤近くの兄弟の会話、これが一番わかりやすい。はっきりとシャーロックの考えが表されている。

 

マイクロフト:  私たちは同じ側にいる

シャーロック: 違うな

 

ジョン:  (マイクロフトは)  悪の黒幕かと

シャーロック:  近いな

 

シャーロック:  彼はイギリス政府そのものさ

 

S1E2

絵のアドバイスを、見るからにlowerの青年、ラズに求めに行くシャーロック。

 

S1E3

 シャーロックが信頼する情報源は、ホームレスの女性。

 

S2E1

バッキンガム宮殿にハダカで出向くシャーロック。シャーロックがただ一人女性として認めるアイリーンは、裏社会の住人。

 

S2E3

fallのシーン。シャーロックが信頼したのは、モリーとマイクロフト以外には、ホームレスの25人だった。

 

S3E3

ジャンキーの ウィギンスを助手にするシャーロック。両親の家にまで呼んで助手を。ママは違和感があったようだったが。

シャーロックが心から信頼するメアリーは、

本当の名前も国籍もわからない女性だ。

 

CAMに対し、必要悪だとするマイクロフト。一方、弱い人々の秘密を食い物にすると怒りを表すシャーロック。

 

こうしたことに加え、sp「忌まわしき花嫁」でわかったように、シャーロックの深層心理には、マイクロフトへの強いコンプレックスがある。シャーロックは、兄への対抗心を持ち続けながら生きてきた。だから、マイクロフトの言うことには絶対に従わないし、マイクロフトが黒といえば白という、思春期の少年のような態度をとり続けてきたのだ。

 

しかし、今は他にどうすることができるだろう。頑なに否定してきたマイクロフトの軍門にくだり、兄の方針に従うことしかできない。

弱い立場の人と共にあろうとしてきたシャーロック。だが、それは権力と無縁であることと同義でもある。ドラッグでむりやりにでもハイにしなければ、屈辱感に打ちのめされ、立ち上がることもできないだろう。

このドラッグの描写は、プロローグから始まり、ロージーちゃんの洗礼式の後まで続く。

 

さらに、このプロローグは、ゲィティスの、もちろんモファットも共有していると思うが、国家権力に対する見方が鮮明に現れているシーンでもある。

国家による犯罪はいかにして行われるか。誰も知らないところで、情報操作が行われる可能性は平時であってもありえる。

 

S3E3で、モファットは、CAMにこう言わせている。

 

知識が全てなのだ。メディアが文字や映像に載せた時点でそれは真実となる。

 

では、その映像が捏造されたものであったら?

その時点で、真実は葬り去られる。そのことを示唆しているのがこのシーンだ。マイクロフトとサー・エドウィンの言葉で、ゲィティスは、わざわざ二度も繰り返している。

だが、ゲィティスは、あからさまにそれを非難したり強調したりしない。淡々と描き、あとは視聴者に判断をゆだねるのみだ。

 

このプロローグは、シリーズ中、兄弟の立場の違いがもっとも鮮明に示された場所だ。しかもそれはシャーロックの敗北を意味する。シャーロックがドラッグ無しには、どうにも切り抜けられないくらいの決定的な敗北だ。

それを、あえてコミカルに描いているのが、いかにも才人ゲィティスらしい。

 

さあ、ダメダメシャーロック。ここから立ち直れるのか。