この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock sp-2

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カーマイケル邸へ向かう列車の個室

エミリア・リコレッティのことを恐れるワトソンに

 

ホームズ: この世に亡霊などいない

自ら創り上げているんだ

 

これはホームズがワトソンに言っているが、やがて自分に返ってくる言葉。

 

 

カーマイケル邸

ワトソンが、サー・ユースタスと話をしている。サー・ユースタスは、妻のいうことも、リコレッティのことも否定する。

 

カーマイケル邸の外へ出ながら、

 

ホームズ:  拳銃を持ってきたか?

ワトソン:  亡霊相手に?

ホームズ:  持ってきたか?

ワトソン:  もちろん

ホームズ:  獲物は放たれた

The game is afoot !

 

古めかしいというので使えなかった言葉がやっと登場。

 

カーマイケル邸の敷地内の温室、深夜

ホームズとワトソンは温室内で待機。

 

ワトソンはホームズが懐中時計の中にアイリーン・アドラーの写真をいれて持ち歩いていると指摘する。このアイリーンの写真は現代の写真。シャーロックの頭の中のことだから。

 

なぜ結婚しないんだ、と面倒な話題を出すワトソン。

 

ワトソン: なぜ一人でいる必要がある?

ホームズ: 僕には感情は邪魔だ

ワトソン: 感情を持たぬ頭脳、計算機

私のホームズを読者は信じた。でも本当の君じゃない。君は生身の人間。感情もある。衝動も 。なぜそうなった?

ホームズ: 原因などない  Nothing made me.  

 

 犬の鳴き声が聞こえる。

 

ホームズ:  自らこうなった  I  made me.

赤ひげ?

 

ワトソンは、ホームズのことをよく理解している。シャーロックの願望?  I made me.という言葉はS4へ続く。この言葉に続き、やはりキーワードの赤ひげ。

 

外に花嫁姿の女の姿が見える。飛び出していく二人。その時、カーマイケル邸でガラスの割れる音とサー・ユースタスの叫び声が聞こえる。

 

ホームズがカーマイケル邸の二階へ駆け上がると、既にサー・ユースタスは殺されていた。

 

遺体にホームズが最初に見ていなかったmiss me? のメッセージカード。このあたりから、ストーリーが崩壊し始める。

 

ディオゲネスクラブ

画面は唐突にディオゲネスクラブへ。

マイクロフトがなぜかそのカードを手に持っている。

 

マイクロフト: お前は深みにはまりすぎた。リストは作ったか? リストが必要になる。

 

この深み、というのはもちろんマインドパレス。

ホームズは紙を見せるが、

 

マイクロフト:  いい子だ  Good boy.

ホームズ:  いや、まだ完成していない

 

と渡さない。マイクロフトは、good boy

と、普通の兄さんみたいに。これはシャーロックの願望?

 

マイクロフト: モリアーティはそう思わない

ホームズ:  彼は僕を惑わそうとしている。頓挫させようと

 

マイクロフト:  モリアーティ、彼はレンズのひび、香油のハエ、データのウイルス

 

と言ってホームズを見る。データという言葉はヴィクトリア時代には合わないので、ウィルスというところに意味を持たせている?マイクロフトはお見通し?

 

ホームズ:  終わらせなければ

マイクロフト : モリアーティが滝つぼから戻ったならお前を見つけ出す

シャーロック :  僕は待っている

マイクロフト:  だろうな、お前はそうするだろう

 

ホームズが何をするかわかっているマイクロフト。悲しそうな顔になる。

 

イカー街、221B

ホームズは、2日間、何も食べずマインドパレスに潜っている。

コカインの注射器に手を伸ばすホームズ。

そこへ現れるのは、モリアーティだ。

 

コメンタリーで、ゲィティスは、このシーンのことをシャーロックの潜在意識にモリアーティが亡霊として登場する、と言っている。モリアーティは、もちろん死んでいるから。

 

二人とも銃を手にして向かいあうが、

 

モリアーティ: 殺しあうのに銃はいらない、もっと深い仲だ  

 

深い仲というのはステキな訳だけれど、もともとは、intimacy  と言っている。親密な近しい関係。兄弟、双子。モリアーティは、シャーロックのダークな双子なのだろう。

 

ここで急に画面はグラグラ揺れる。

 

モリアーティ: 自らあたまを撃ち抜いた花嫁が生きかえった、君はそのカラクリを知りたい

前にも起きなかったか?

 

画面はさらにグラグラ。

 

モリアーティは、自分で銃で頭を打ち抜くが、死なない。

 

ホームズ  :  脳を吹き飛ばしたのになぜ生きている?

モリアーティ:  落ちて死ぬのではない、落下ではない、着地だ

 

ここで、画面は、急にプライベートジェットが着地するシーンへ。21世紀。

 

プライベートジェット機

機長がシャーロックに挨拶する。レディカーマイケルの顔。

 

シャーロックを覗きこむ、マイクロフト、ジョン、メアリー。

 

シャーロック:  リコレッティ夫妻のところへ戻らなければ。僕の記憶装置に入っていた

マインドパレスにいた

1895年にいたらどう解決したか実験してた

 

画面ではわからなかったが、やはり、栄光の年、1895年だったのか。

 

始まりからここまでの映像は、シャーロックのマインドパレスの中の出来事だった。

シャーロックのマインドパレスの中で、ホームズは 7% のコカイン水溶液でマインドパレスに潜っていたが、それは機内の五分間、ドラッグを使って、マインドパレスに入っていたシャーロックの心の中の映像だった。

 

マイクロフトは、ああ、シャーロック、と鎮痛な表情。シャーロックは、ドラッグの過剰摂取に陥っていた。いち早くそれを見抜くマイクロフト。

 

メアリー:  ジョンのブログを読んでたのね

シャーロック:  彼の目で自分を見ると賢くなれる

マイクロフト:  マインドパレスは、記憶術だ、できることとできないことがある

 

マイクロフト:リストを作ったか?

 

マイクロフトの服のことでごまかそうとするシャーロック。

 

シャーロック:  なんの?

マイクロフト:  摂取したものすべて

 

いままで何回も出てきたリストという言葉。ここで初めて、薬物、ドラッグリストだということがはっきり示される。

 

シャーロックはポケットから折りたたんだ紙を取り出す。床に落ちたそれを拾ったジョンは驚いた顔。ジョンも驚くほどたくさんのドラッグ。。

 

マイクロフトは鎮痛な表情だ。

 

マイクロフト :  あの日以来、私と弟は約束した。弟をどこで見つけてもいいように

必ずリストを作ると

 

この後のわずか 2、3 秒の短いシーンは、多くのことを教えてくれる。

 

この回想シーンを、ゲィティスは、コメンタリーで、二人は10代後半から20代前半と言っていた。するとやはりシャーロックは、17〜19歳くらいだろうか。

このシーンでは、10代のシャーロックがソファに横たわり、胸を掻きむしって悶え苦しんでいる。傍らで、シャーロックの身体のそばにある紙に手を伸ばし、書かれた文字を読んでいるのは20代前半のマイクロフト。

瓶に入れたロウソクが灯っている。電気のない空き家か廃屋。マイクロフトが危機一髪でシャーロックを見つけた。この頃からマイクロフトはシャーロックの隠れ家をチェックしてたね。S3E3のように。その必要があった。

 

シャーロックは薬物依存に陥り、一つ間違えば、命を落とすところだった。

今まで、何回も、マイクロフトの口から出たリスト。それはシャーロックの命を守るためだった。なぜ、兄があんなに心配症なのか。なぜ、家探ししてでもドラッグを見つけようとするのか。全てこのシーンが物語ってくれる。

 

S3では折りにふれ、兄弟の歴史が語られてきた。

S3E1では、小さい頃の二人を彷彿とさせるシーン。友だちがいなかった頃、マイクロフトはシャーロックに推理することを教えた。それが遊びだった。友だちと接するようになった二人は自分たちが普通でないことを知る。

 

この回想シーンは、シャーロックが10代後半の自我を確立する時期だ。

このシーンは、この後S4へ、特に S4E1、S4E2  へ続くが、同時にまたドラマシリーズの最初へと繋がっている。一番最初にドラッグが出てくるのはS1E1だが、すぐに思い浮かぶのは、S1E2だ。シャーロックの大学時代の友人セバスチャンは、みんながシャーロックのことを嫌っていた。 hatedと言っていた。あの時のシャーロックは、セバスチャンと話している間ずっと硬い表情のままだった。

 

セバスチャンと接点のあった学生時代は、この回想シーンからそんなに時間は経っていない。

天才の兄弟が成長し、集団の中で生活するようになった時に、道は分かれていったのだろう。

兄は自分の能力を、地位と権力を持つ方向に使った。弟はよりナイーブで、多くの子どもたちのように、社会化される過程で社会的なふるまいを身につけることができなかったゆえに、マイクロフトよりさらに生きることが難しかった。

 

iceマンを標榜するマイクロフト、思いやりはいらない、と言うマイクロフトだが、彼が弟のことを心配する光景からは、それが権力を手にするため、あるいは権力を維持するためのものであることが想像できる。いつしか、マイクロフトは、何をするかわからない弟を守るためにも、地位と権力を維持しようと思うようになっていったのだろう。

 

マイクロフトがイギリス政府そのものであるような地位と権力を手に入れたのとは違い、シャーロックは、探偵と、ドラッグへの依存と、そして 心を閉ざす道を選んだ。

その意味では、ソシオパスは推理のためだけでなく、自分を守る手段だったのかもしれない。自分を理解しない社会の中で、誰からも理解されず hate される日常の中で、自尊心を守るためにはその道しかなかったのかもしれない。

だからこそ、初めてジョンが自分を理解してくれたと感じたあの日から、シャーロックが自分を取り戻す過程が始まったのだ。

マイクロフトも、シャーロックも、小さい時は、ごく普通の子どもだったのだろう。だが、天才ゆえに二人は、それぞれ違う方向で自己を閉ざして生きざるをえなかったのだ。

 

若い時からドラッグに依存してきたシャーロックは、ドラッグに頼る性癖から大人になった今でも抜けられない。東欧へ向かう飛行機の中でも、ドラッグに頼ったシャーロックだ。機内でマイクロフトからの電話を受けた時、少し涙ぐんでいるように見えた。強がっている言葉とは裏腹にシャーロックは強くない。

 

S2E2とはまた違う面からシャーロックの弱さが見えるこの特別編。兄弟の繋がりの深さと、マイクロフトがシャーロックへ向ける愛情を随所で見せてくれる。