この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S1E1-4

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カレッジの外

救急車に腰掛けているシャーロックの肩に、オレンジ色の毛布がかけられている。

 

ジェファーソン・ホープを撃った犯人についての推理を、レストレードに披露するシャーロック。

射撃の名手

冷静で、戦い慣れている

ぎりぎりまで撃たなかった道義心がある

軍歴のある人物

豪胆で、、

 

 

ふと、離れたところに立っているジョンと目があい、一瞬でシャーロックは理解する。

 

その場を離れるシャーロック。レストレードは微かに微笑む。事態を理解しているスコットランドヤードイチできる男、レストレード。

 

シャーロック: いい腕だ。君だろ

 

大丈夫か、とシャーロックは聞くが、ジョンは大丈夫だ、と全く動揺していない。

シャーロックは人を殺したのに? と問うが

ジョンは悪い男だったから、と全く悪びれない。

ジョンも、また多くの人々が持つ価値基準とは別の世界に生きている。人の死が日常であるような、危険と冒険が大好きなジャンキーなのだ。

 

ジョン  :  あの薬をのむつもりだったろ

命がけで、自分の賢さの証明しないではいられないくせに

 

シャーロック: なぜ僕がそんなことを?

 

ジョン : バカだから

Because  you're an idiot.

 

シャーロックは、ジョンに微笑む。

 

ここで、BBCスクリプトでは、

Sherlock looks at him for a moment , affronted.

And then ...smiles.  And if it begins anywhere ,

it begins here-- the two best friends ever.

と、ある。

 

シャーロックは、むっとしてちょっとジョンを見て、、そして微笑む。とにもかくにも、二人の親友が、ここで生まれたのだ。

 

Arian DeVere さんのスクリプトでは、

Sherlock smiles , apparently delighed that he has finally found someone who understands  

him and -- more to the point-- does't care about his behaviour.  

と、なっている。

 

シャーロックは、微笑む。

彼を理解する人間をついに見つけたことを、さらには、彼のふるまいを気にかけない人間を見つけたことを喜んでいるように見える。

 

どちらもステキな表現。

そして、私はこうつけ加えよう。

 

再び繰り返されるフレーズ。221 Bのシーンでシャーロックが言った同じ言葉が、今度はジョンによって使われる。シャーロックとジョンの関係が、この言葉に集約されている。

前半では、amazing !   brillant !  とシャーロックの天才ぶりに感嘆するだけだったジョン。しかし、今、二人は対等だ。

 

そこへマイクロフトとアンシアが現れる。

ここで、ジョンは悪者だと思っていた人物がシャーロックの兄だと知ることとなる。

 

マイクロフト:  You and I belong on the same side.     

私を見方だと思った事はないのか?

 

シャーロック:  Oddly enough, no.  

不思議だね、ない

 

マイクロフト : 私たちには共通点も多い

こうやっていがみ合うことが、みんなを苦しめている。ママがどんなに悲しんでいるか

 

マイクロフトのような大人の男性が、Mummy という子ども言葉を使うのがおかしい。ほぼほぼマザコン

 

シャーロックはジョンに、兄のマイクロフト  と紹介する。

 

ジョン:    He's not...Some  kind of...criminal mastermind

てっきり、ボスかと。。犯罪組織の

 

シャーロック:  Close enough 

そんなもんだ

 

マイクロフト:  I occupy  a  minor  post

in  the  British  Goverment.  

 わたしはイギリス政府の末端に籍を置いている

 

シャーロック:  He  is  the  British  Goverment.

彼はイギリス政府そのものさ。秘密情報局やC IAの協力をすることもある

 

S1E1は、シャーロックの原像を描くことが中心になっているが、ドラマシリーズ全体を最後まで貫く重要なテーマの一つが、シャーロックとマイクロフトの立ち位置の違いだ。

それが明瞭に表現されるのがこのシーン。

 

ジョン: 本当にただの兄弟喧嘩?

マイクロフト : 弟は、怒りっぽくてね、

クリスマスは大変なんだ

 

シャーロックの家族関係とその中でのシャーロックの役回りがなんとなく想像できる。

 

ジョンがアフガニスタンで撃たれたのは、左肩。シャーロキアンの先輩方の長年の議論の的の一つ。

 

モリアーティ、とつぶやくシャーロック。S1の最後への伏線。

 

S1E1の最後は、Sherlock  Holmes  and  Doctor  Watson.  というマイクロフトのセリフ。

さあ、ここからシャーロックとジョンの冒険が始まる、という宣言だ。この言葉は、S4E3の最後に再び使われる。

 

シャーロックとジョン、二人が顔を見あわせ微笑みながら並んで歩いていくシーンで、 S1E1は終わる。

 

結局、謎は全部明かされない。

最も重要な謎ーーシャーロックが飲もうとした薬は正しい選択だったのか。ジェファーソン・ホープは、裏の裏を読んでいたのではないのか?

ジェファーソン・ホープは、なぜ四人すべてとのゲームに勝ったのか。

モリアーテイとは誰なのか。

すべてが謎のままだ。

 

謎が解かれていないので推理作品としては完全ではない。

モファットとゲィティスは、このドラマシリーズは謎ときの作品ではなくシャーロックを描いた作品だ、とコメンタリーで語っている。二人はあえて第一作である S1E1を、推理が不完全な構成にした。そこに、二人の意思が見える。

 

若いシャーロックのまだ大人になりきらない未完成なあやうさ、傲慢さ。

シャーロックの変化とともに、ジョンとの関係も刻々と変わっていく。そして、ドラマシリーズの最後に、世界的に有名なあの二人組が誕生する。その物語が、ここから始まる。

 

S1E2  へと続きます。