この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S1E2-1 ver.2

シーズン1 エピソード2

The Blind Banker

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脚本:スティーブ・トンプソン

監督 : ユーロス・リン

 

 S1E2は、シャーロックとジョンが次第に距離を縮めていく過程を描いていている。

この回は脚本家が違うせいか、ちょっと説明不足の感もあるのだが、見ている私たちが違和感を感じる場所が実は大切なような気がする。

 

 

S1E2のNHKの邦題は「死を呼ぶ暗号」、しかし、これだと原題に含まれる意味を見失ってしまう。

原題は、目に暗号を書かれた banker、事件に関与して殺されたbanker、シャーロックに事件を依頼してきたbanker、三人がblind  だという意味だと思う。

blindは、目が見えないという意味から転じて、第二、第三のbankerには、見る目がない、ものごとのわからない、という意味で使われている。

ここでのタイトルは、誰にも文句を言われないのを幸い、原題のままにしておこう。

 

プロローグ

国立古美術博物館、中国古美術室

(BBCスクリプトでは、スーリンのセキュリティバッジ に 大英博物館 BRITISH MUSEUMとある、と書かれているのだが、後での展開から

ドラマ上は、National Antiquities Museum  国立古美術博物館という設定になっている)

 

中国茶のデモンストレーションをするスーリン。

 

博物館の職員のアンディが飲みに行かない?と誘うが、スーリンは断る。スーリンに好意を持っているアンディ。スクリプトには、考古学専攻、Sexy in a geeky way. おたくっぽくてセクシー、とある。これは、ステキって意味だろうな。

 

保管庫の廊下でスーリンが見たのは、、

 

オープニング

 

テスコ

ジョンはスーパー(Tesco Extra)のセルフレジでカードのエラーにてこずっている。

 

イカー街221B

シャーロックは、刺客(シーク教徒の戦士、完全な伝統的戦闘服とスクリプトに) と、戦っている。この刺客が何ものかは、ずっと後で。

 

レジと格闘するジョンと、刺客と戦うシャーロックが交互に。テーブルにナイフの傷がつく。

 

ジョンが帰ってきて買い物ができなかった、というので、シャーロックはカードを貸すというと、

 

ジョン :  君が買いにいけば? 朝から動いてないだろう

 

シャーロックの脳裏に刺客との格闘シーンが浮かぶが、ジョンには何も言わない。

ナイフを靴で隠すシャーロック。

 

ここはややわかりにくいが、自分の世界に誰かが入ってくるのを拒む、という描写。今まで、孤立を守り、一人で考え推理する、という生き方を選んできたシャーロックだから。

 

ジョンは、シャーロックのカードで買い物をしてくる。

最初、マイクロフトの陰謀でジョンが買い物ができなかったのかと思ったが、やはり、ジョンの銀行残高が足りない。これが、この後のジョンの求職活動とつながっていく。

 

シャーロックは、パソコンでメールを読んでいるが、使っているのはジョンのパソコン。自分のは寝室にあるから、というのが理由。

ジョンのパソコンを勝手に使うシャーロック。

自分勝手に見えるが、シャーロックの世界の住人は、シャーロック一人なのでこうなる。

パスワードを探すのは簡単。ジョンはパソコンをひったくり返す。

 

シャーロックが読んでいたのは大学時代の友人、セバスチャンからのメール。事件の依頼だ。

 

ジョンは請求書の束を手に。経済的にかなり逼迫している模様だ。シャーロックに金を貸して、と。これは辛い。

シャーロックは、知り合って間もないジョンにカードを貸す。金に執着がない。フラットシェアするから裕福ではないが、経済的に困っていない。サリーが言っていたように、事件を解決しても対価をもらうわけではないのに、なぜか生活できている。

 

シャーロックは、金を貸してと頼むジョンに、銀行へいくと返事。

 

タワー42

シャド・サンダーソン投資銀行

 

コメンタリーで、プロデューサーのスーは、ロンドンの現代っぽさを映像にしたかったと言っていた。確かにベイカー街とは、全然雰囲気が違う。

 

シティはロンドン発祥の地、古い建物と新しい高層ビル群が共に立ち並ぶ。向かい側にガーキン(きゅうりのピクルスに似ているのでこう呼ばれるそう)が見える。

 

ジョン : 銀行って投資銀行

 

シャーロックとジョンは、42階へ。

シャーロックは黒い手袋をしたまま、セバスチャンと握手。セバスチャンの方は両手で。

 

セバスチャン :  久しぶりだな、八年ぶりか

 

セバスチャン登場のシーンでは、スクリプトには、

He has that floppy hair that bellows ”Eton”.

と書かれていて、イートン校出身となっている。セリフには何もないが。

 

セバスチャンは、ある種のイギリス人の典型だ。

学校の成績はよくて、おそらくオックスフォードかケンブリッジ出身。原作のシャーロック・ホームズも、どちらの大学出身かで長年議論があるが、決め手がないままだ。

イートン校出身であれば、間違いなく上流階級 upper の家に生まれ、小さい時から特別な私立学校に通い、今は、イギリス経済の中心を担う職業に就いているセバスチャン。

 

このS1E2は、ストーリー展開はやや地味な印象だが、作り手の視点を鮮明に表現していて小気味よい。セバスチャンの描き方も、その一つだ。

 

シャーロックが「友人のジョン・ワトソン」と紹介すると、セバスチャンはちょっと皮肉っぽく意外だ、という表情。

友人と紹介するシャーロック。今は友人がいる、とセバスチャンに言いたかったのかも。しかし、すかさずジョンは「同僚だ」と。

 

この時、ジョンはシャーロックをちらっと見る。シャーッロックは視線を下に。あれ、しまったかな?というジョンの表情。

だが、この時、シャーロックはセバスチャンの時計を見ていたことが後でわかる。 

 

シャーロック: 景気がいいみたいだな。世界中を飛び回ってる。一月に二回も。

 

いつもの癖がぬけないシャーロック。

観察したままを口にする。

 

すると、

 

セバスチャン : (ジョンに) 大学が同じでね

こいつ this guy は昔から trick  (奇術)がうまくて、人を見ただけで過去がわかる

だから、みんなに嫌われてた

 

ここで、スクリプトには

ジョンはこっそり大喜びした、とある。

 

セバスチャン : 朝、大学の食堂に行くと、こいつには this freak 、 ゆうべセックスしたろ、ってお見通しなんだ

 

シャーロック: 観察しただけだ

 

セバスチャン : 確かに月に二回、世界を周ったよ。なぜわかる?

 

シャーロック : 君の秘書とおしゃべりして知った

 

微妙な表情のジョン。

 

セバスチャンは、大学時代を振り返り、シャーロックが trick 奇術をやっていた、We hated him. みんながシャーロックを嫌っていた、とも。

 

この会話の間、シャーロックの表情はずっと内省的だ。悲しみ、というより、記憶を反芻するという感じ。ここのベネディクトは、うまいな。

 

セバスチャンは事件の解明のために依頼はしているが、今もシャーロックを理解しているわけではない。

シャーロックは、否応なく大学時代を思いだしているだろう。あの頃。セバスチャン、そして友人たち。原作には大学の友人も出てくるが、21世紀のシャーロックはもっと孤立していた設定だ。

 

他の学生もそうだったかもしれないが、hateしていたのは、セバスチャン自身だろう。hateは強い表現だ。忌み嫌う、という語感。

自分が理解できない存在を嫌う。それは、サリーが使っていた freak という同じ言葉を、セバスチャンも使っていることからもわかる。

 

シャーロックを理解しない友人たちから異端視され、学生仲間として認められていなかった学生時代。

自分の頭脳と、自分を理解しない人々との折り合いをつけることのできなかった学生時代のシャーロック。

 

セバスチャンとのシーンでの口数少ないシャーロックからは、今もシャーロックを理解しようとしないセバスチャンに対して、シャーロックが持っている距離感が感じられる。

だから、セバスチャンに対して、なぜ一月に二回も海外にでかけたのかがわかったのか、本当の理由を説明する気になれない。

 

 その2に続きます。