この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S4E3-6

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ディオゲネスクラブのマイクロフトの部屋

シャーロックとパパとママが来ている。

ママは、マイクロフトに怒っている。

 

 

ママ:  (ユーラスが)  ずっと生きていた、ですって?! ずっと嘘をついていたの?

 

マイクロフト : ルディ伯父が始めたことを継続すべきかと

 

パパ: 今のあの子がどんな人間になってしまったにせよ、私たちの娘であることに変わりはない

 

マイクロフト : 僕には妹だ

ユーラスはシェリンフォードに。今度こそ厳重に見張られてる

人を殺したんだ。機会があれば、また彼女は人を殺すだろう

一生、シェリンフォードにいることになる

 

マイクロフトの解決方法は、以前と変わらない。

僕には妹だ、と愛情を見せながらも、イギリス政府そのものであるマイクロフトの発想は、やはり監視と管理だ。

 

前のシーンでは、川と観覧車が見える、つまりロンドン上空だ、という飛行機の少女に、飛行機を海に墜落させることを提案しようとしたマイクロフト。多くの人を助けるためには、一人の犠牲はやむをえない、と。

シャーロックはそれにはおかまいなく、あくまでも少女を助けようとする。

S4E1冒頭で示されたシャーロックとマイクロフトの違いは、S4の最後にまた違う形で繰り返される。

 

マイクロフト  :

彼女とは会えない。口をきかないんだ。誰とも一切コミュニケーションをとろうとしない

違う世界に行ってしまった

もう、どんな言葉も届かない

 

ママ: シャーロック

お前は、昔から大人だった

これからどうすればいい?

 

おや、ママはそう思っていたの? するとマイクロフトが、シャーロックに、バカだバカだ、と言っていたのは兄の虚勢? ますます可愛いね、マイクロフト 。

 

シェリンフォード

ヘリコプターから砂浜に降り立つシャーロック。特別房へ向かうシャーロックが、映像の間に挟まれ、シャーロックが何回もシェリンフォードを訪れていることがわかる。

 

シャーロックが来ても、ユーラスは振り返らない。アイリーンの曲を弾き始めるシャーロック。

 

シャーロックは、繰り返しシェリンフォードを訪れヴァイオリンを弾く。ユーラスに寄り添おうとするシャーロック。

 

やがてユーラスは立ちあがりヴァイオリンを手にとる。

ユーラスは、アイリーンの曲の一節を演奏する。シャーロックに弾いてみてごらんと言っているよう。シャーロックが同じ一節を弾く。ユーラスの方がかなりうまい。昔も今も、ユーラスはシャーロックのヴァイオリンの先生だ。

 

何度もシェリンフォードを訪れるうちに、ユーラスはシャーロックと二重奏を演奏するようになる。いつしか、ユーラスの顔にかすかな微笑みがうかぶ。シャーロックも、ユーラスに微笑みを向ける。

この最後の短いカットが、ユーラスの物語にかすかな希望を与えている。

 

二人の演奏をきくマイクロフト、パパとママ。ママは、マイクロフトの手に手を重ねる。よかったねマイクロフト。ママが許してくれた。

 

 

ニュートン以上と評されたユーラスの知能。だが。世に知られた多くの天才と同じように、ユーラスの成長は、アンバランスなものだった。

一つのものへの強い執着。痛みを感じない身体。知能以外の能力の欠如。アンバランスな心身。

ユーラスへの対応は強権的だった。五歳の少女から全ての愛する者を奪った。

 

ユーラスの精神分析のビデオ冒頭。ユーラスはこう言っている。

 

私はなぜここに?

これは何かの罰?

誰も教えてくれない

 

誰も答えることのないこの問いを、ユーラスは、何百回、何千回、問い直しただろう。

答えがないなら、もはや、この幽閉を意味のないものにするだけだ。人の心をあやつり、ユーラスは出入り自由だ。

五歳から人の心を操る力があったと、わざわざマイクロフトに言わせているのは、あの写真のコレクションの説明のためだろうか。赤ちゃんのシャーロックの写真は、両親の家にしかないだろうから。誰かに盗ませたのか。。

 

何よりほしかったシャーロックの愛、その愛に包まれた瞬間、ユーラスの硬く閉ざされた心は人間らしい感情を取り戻す。

 

しかし、感情を取り戻した瞬間、世界はユーラスに襲いかかる。

あまりにも長い時間、監視され管理され、一切の自由を奪われてきた。自分を取り囲むものへの絶望と憎しみ。苦痛を苦痛と感じないように、心を閉ざして生きてきた。「冷血」であることで、自分を守ってきた。

シャーロックへの執着だけが、ユーラスを支えた。

 

渦をまくように自分を取り囲む負の感情に、ユーラスの心は耐えられない。ユーラスは再び心を閉ざす。

 

ユーラスは圧倒的な「悪」として描かれている。だが、ユーラスは決して異常者や殺人鬼ではない。もし、本当に「悪」であるなら、殺人鬼であるなら、再び心を閉ざす必要はないからだ。

 

シャーロックよりマイクロフトよりさらに知能的に上回るユーラス。だからこそユーラスのアンバランスさは人並みはずれて大きかった。

ほんの少しの愛と、ゆっくりとした時間があれば、ユーラスはもしかしたら、成人する頃にはバランスのとれた大人になっていたかもしれない。五歳の少女には過酷すぎる運命。ユーラスは、それにたった一人で立ち向かわなけばならなかった。

もし、ユーラスの罪を問うのだとしたら、問われるべきは、少女の成長を見守る余裕のなかった大人の側かもしれない。

 

救いのないユーラスの物語に希望をともしているのが、ヴァイオリンだ。ヴァイオリンが作り出す音楽の世界が、シャーロックとユーラスをつなぐ唯一の接点となる。言葉でも論理でも知識でもなく、音楽だけがシャーロックとユーラスを繋いでいる。

論理や言葉ではない、知能とは違う能力。シャーロックのこの能力については、S1からずっと描かれてきた。フェンスやテーブルを軽々と飛び越え、香水を嗅ぎ分け、犯人や侵入者と格闘し、何より美しいヴァイオリンを奏でること自体、優れた感性の持ち主であることの証だ。

 

シャーロックとユーラスという二人の天才をつなぐものがヴァイオリンだけ、というユーラスの物語の結末は、S4E3だけでなく、このドラマシリーズ全体を貫く一つのメッセージとなっている。

 

そして、ここからは

ドラマシリーズ全体のエピローグ

 

イカー街221B

ドローンに乗った辛抱爆弾の爆発で、部屋は焼け焦げている。シャーロックとジョンは、片付けを開始。

 

ジョンの家

ジョンが郵便物の封筒をあけると、 会いたい、MISS YOUと書かれたDVD。

DVDはメアリーからだった。

 

メアリー:

追伸

私にはお見通し

私がいなくなった後、あなたたちがどうなるか

二人をよく知ってるもの

犯罪を解決することでハイになるジャンキー

戦場に心を置いて来てしまったドクター

 

でも本当は、どんな人間かはどうでもいい

大切なのは伝説と物語と

そして、冒険

 

イカー街221B

シャーロックは、残骸の中で自分の椅子に座ってメールを打っている。

 

僕の居場所は知ってるね

You know where  to find me.  SH

 

メアリー:

絶望し、愛されず、迫害を受けた人間が

最後に逃げ込める場所がある

誰でも話を聞いてもらえる最後の法廷

 

人生で奇妙なこと、ありえないこと

恐ろしいことが起きてしまった時の

最後の希望

 

イカー街221B

ジョンは、黄色のスプレーで壁紙にスマイリーを描き、

シャーロックは銃で壁に穴を。

開封された手紙にはナイフ。

以前と変わらぬ221Bが戻ってきた。

 

椅子に腹話術の人形。黒板には原作から「踊る人形」の絵。床にはヴァイキング姿の男 (ポール・ウェラー)  が横たわる。

 

ハドソンさんはスプレーを片手に。S2E1で活躍したあのスプレー?

シャーロックはロージーちゃんを抱いている。おもちゃをぶつけられなくなってよかった。

ロージーちゃんを抱くジョンの左手には、今も結婚指輪が。

 

レストレード、続いてモリーも晴れやかな笑顔で登場。どうやらモリーは、シャーロックを許してくれたらしい。

 

メアリー:

誰でもお手上げでも

むさくるしい部屋で議論をかわす二人の男がいる

今までもこれからも

二人はずっとそこにいる

 

私が知る最高に善良で賢い男たち

私のベイカー・ストリート・ボーイズ

シャーロック・ホームズとドクター・ワトソン

 

 

主要な登場人物が次々と登場。舞台のカーテンコールのようだ。シャーロックがメールを打っている相手が気になるところだが、 S1E1では、レストレードに同じ文面でメールをうつ。エピローグは、S1E1とパラレルになっているからレストレード説が有力だが、私は何の情報もなく見た時、相手はアイリーンだと思った。

腹話術の人形や海賊とほぼ同じ意味のヴァイキングもいるし。S1やS2の回想になっている。

S4E2で、あれだけアイリーンを登場させながら、この最後の場面では出てこない。レストレード自身は、ベイカー街に本人が現れるので、実際には221Bにいないアイリーンをメールの相手として登場させ、主な登場人物をみんな勢揃いさせた、と思うのだが。。

ハハ、どっちでもいいのさ、とモファットとゲィティスは言いそうだ。

 

メアリーのDVDの最後の言葉は、S1E1の最後でマイクロフトがいう台詞とパラレルになっている。こうして、あの二人組がうまれた、そしてこのドラマシリーズを終える、という宣言だ。

モファットとゲィティスが、最後の最後にメアリーに大切な言葉を語らせているのは、大事なポイントだ。この点は、またあらためて。

 

最後は、ラスボーン・プレイス  Rathbone Place  から飛び出していくシャーロックとジョン。新しい冒険が二人を待っている。

 

こうして、私たちがよく知っているあの有名な二人組は誕生した。

おしまい。

 

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いやー、楽しませてもらいました。

極上のエンターティメントでありながら、見事な社会批評に。

 

ここまで、読んでくださって本当にありがとうございました。毎日のアクセスが励みになりました。お付き合いくださったみなさまに、心から感謝申し上げます。

ストーリーのフォローに、なんと一年以上かかってしまったけれど、一番最初に書いた通り、次回から、レヴューに入ります。

 

・・・と、思ったのですが、読み返してみると、S1E1、S1E2は、ストーリーを全部追ってないじゃありませんか。

で、訂正。

S1E1、S1E2だけは、リライト版を書いてから、全体のレヴューに行きたいと思います。

では、また近いうちに!