Sherlock S4E1-2
S4E1は、物語の構成がややわかりにくい。
今までにも何回か書いたと思うが、このドラマシリーズ全編を通して中心に描かれているのは、いわゆる推理そのものではない。
モファットも、ゲィティスも、S1のコメンタリーの早い段階で謎ときは重要ではない、と言っている。だから、S1E1は、示唆的に謎ときは未完に終わっている。
彼らが謎ときを通して描こうとしているのは、シャーロックであり、シャーロックとジョンの物語だ。二人それぞれが変わっていくことで、二人の関係が変わっていく。謎ときと、シャーロックとジョンの物語の二つが重なり合い、うまく噛み合った時に、面白い!と感じる。
S4E1は、この表のストーリーとアナザーストーリーの進行にずれがある。謎ときの切れ目と二人の物語が重ならない。
S4E1の終盤。ストーリーは一応切れるが、二人の関係は完結していない。ちょうど中間と言ってもいい。推理の方は、犯人と動機がわかり一段落する。
だが、シャーロックとジョンの物語が完結するのは、S4E1ではなく、E2の終盤近くだ。シャーロック、ジョン、メアリーの三人の物語もまだ終わっていない。この三人の物語については、またあらためてS4 E2でふれるつもり。
ベイカー街、221B
物語は、シャーロックが読むサマーセット・モームの「サマラの約束」から始まる。
背景に泳ぐのは水族館のサメ。物語の冒頭で、死を暗示する。予言の自己成就。死は避けられないのか。水族館は物語の最後へと続く。
依頼人の話をシャーロック、ジョン、メアリーの3人で聞いている。メアリーの同席は、シャーロックの提案だね。メアリーの観察力や推理力をシャーロックは信頼している。
いくつもの事件を同時に解決していくシャーロック。おや、お久しぶりのディモック警部。あの時、S1E2の最後でシャーロックは警部にハナを持たせてあげたからね。シャーロックのファンに?
皿をまわすようなことはやめろ、とジョンに言われるが、ドラッグのせいで頭脳の超高速回転が止められないシャーロック。
メアリーの出産。あわや車の中で。初めてジョンが運転している。
無事、ロージーちゃん誕生。一瞬たりとも、携帯電話を打つ手を休めないシャーロック。事件を解決し続ける。
ジョンとメアリーの家
ジョンとメアリーは、ハドソンさん、モリーに教母を、シャーロックにも教父に、と頼む。
会話の後でずっと画面に流れている文字。シャーロックは、ひたすら事件を解決し続ける。
教会
洗礼式。牧師が話している間もシャーロックは携帯電話を打ち続けて、モリーに怒られる。ここの神父の教父母への言葉は伏線の意味もありそう。Siriが応えるシーンは、笑えるところだけれど、これはドラッグの描写の一つ。
ベイカー街221B
ロージーちゃんをあやすシャーロック。シャーロックが、ワトソン、と名セリフで呼びかけている相手はロージーちゃん。
ロージーちゃんにガラガラをぶつけられるシャーロックが可愛い。
その後に描かれているのは、徹夜の育児疲れで、眠り惚けるジョンとメアリーの姿だ。
ストーリー上は、次のシーンに続くこのカットの方に意味がある。
バスの中
育児の睡眠不足でうとうとしているジョンに、明日の5時にベイカー街に来いというシャーロックからのメール。しかも、メアリーの許可は得たと追伸。ジョンはアタマにくるよね。まずメアリーですかって。
見知らぬ美女がジョンに微笑みかける。そこに描かれるのはロージーちゃんのオムツを取り替えるジョンの日常。あの冒険野郎、ジャンキーのジョンが。一見すると微笑ましいシーンなのだが。
ベイカー街221B
レストレードが事件を持ってくる。現役の閣僚、デービット・ウェルズバラの息子チャーリーの遺体が車の中で見つかった。
シャーロックは、話を聞いただけでほとんど解決。
レストレードとジョンの育児の話がいつのまにか、シャーロックに重なる。
ウェルズバラ邸へ向かう三人。ジョンへメアリーから電話がかかってくる。オムツとクリームを買うよ、と話すジョン。だが、メアリーは、買い物のことよりシャーロックの推理のことを知りたがる。既に二種類のビニールシートのことを知っているメアリー。メアリーは事件解決の核心に早くもたどり着いている。
なぜそれを知っている?というシャーロックに、
受付嬢ってものは何でも知ってるの、とメアリー。最後に続く伏線。
ウェルズバラ邸
携帯電話を通じたメアリーとシャーロックの会話は、テンポのいい小気味よい会話だ。二人は事件解決の良き相棒。
メアリーとの会話の最後に挟まれる短いカット。
シャーロック: 大衆はバカだ People are stupid.
メアリー: 一部はね some people
シャーロック: みんな・・・ほとんどバカだ
All people are stupid. Most people.
昔の傲慢さが戻っている。
やりとりをそばで聞いていたレストレードは、
(メアリーは) なぜ、ジョンと夫婦に? 彼女は君向きだ、とシャーロックに言う。
レストレードは冗談のつもりだろうが、ジョンは立場がない。
シャーロックには、同性の同僚のような、軽口をたたきながらお互いに刺激を与えあえるメアリーとの関係は心地よい。だがその丁々発止に入れないジョンは、謎ときから取り残される。
ウェルズバラ夫妻と会ったシャーロック。チャーリーのことはそっちのけで、サイドテーブルの不自然にあいているスペースに興味を惹かれる。
シャーロックは、以前のように独善的な態度をとる。ジョンは、そのたびにシャーロックに注意する。 S1、 S2でたびたび描かれたシーンだ。
しかし、ジョンの言葉は今のシャーロックには届かない。以前は、ジョンのアドバイスを受け入れようとしていたのに。ジョンの言葉を聞こうとしないシャーロック。
そばにいるのに、離れている二人。
親指のうずきが何かあると告げてる、とシャーロック。調子の悪いシャーロックだが、身体的な感覚は、いつもどおりだ。
勘は意識が理解する前のデータの表れだ
すでにチャーリーの事件を解決しているシャーロック。
シャーロックの関心はもっぱらサイドテーブルに。そのサイドテーブルにはミセスT、つまりマーガレット・サッチャーの写真や人形が飾ってある。空いた場所には、サッチャーの石膏の胸像があった。石膏像はそこから何ものかによって持ち出され玄関ポーチで割られた、ということがわかる。
ほころびから出た糸だ
妙な感じが
一瞬モリアーティの顔が浮かぶ。ここのシャーロックの勘は、はずれ。
シャーロックはジョンとレストレードを残し、一人で車に乗り込むと、ザ・マルへ。ま、これは今までに何回もあったけどね。
描かれているのは、調子の悪いシャーロック。ただ調子が悪いのではなく、今まで変化してきた人格が逆に過去に戻ったような描写だ。このような描写は、この後も続く。
この傲慢さ、自己中心的な発想は、物語の最後まで変わらない。そして。。。
ジョンはジョンで、シャーロックからは事件解決の相棒の役割を期待されず、育児で行動が制限され、冒険に参加できない。
本来の二人ではない二人。私たちが見たい二人ではない描写が続く。
しかし、これは長い長い伏線。というか、むしろメインのストーリーと言ってもいいのかもしれない。