この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S4E1-2

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S4E1は、物語の構成がややわかりにくい。

 

今までにも何回か書いたと思うが、このドラマシリーズ全編を通して中心に描かれているのは、いわゆる推理そのものではない。

モファットも、ゲィティスも、S1のコメンタリーの早い段階で謎ときは重要ではない、と言っている。だから、S1E1は、示唆的に謎ときは未完に終わっている。

 

彼らが謎ときを通して描こうとしているのは、シャーロックであり、シャーロックとジョンの物語だ。二人それぞれが変わっていくことで、二人の関係が変わっていく。謎ときと、シャーロックとジョンの物語の二つが重なり合い、うまく噛み合った時に、面白い!と感じる。

S4E1は、この表のストーリーとアナザーストーリーの進行にずれがある。謎ときの切れ目と二人の物語が重ならない。

S4E1の終盤。ストーリーは一応切れるが、二人の関係は完結していない。ちょうど中間と言ってもいい。推理の方は、犯人と動機がわかり一段落する。

だが、シャーロックとジョンの物語が完結するのは、S4E1ではなく、E2の終盤近くだ。シャーロック、ジョン、メアリーの三人の物語もまだ終わっていない。この三人の物語については、またあらためてS4 E2でふれるつもり。

 

イカー街、221B

物語は、シャーロックが読むサマーセット・モームの「サマラの約束」から始まる。

背景に泳ぐのは水族館のサメ。物語の冒頭で、死を暗示する。予言の自己成就。死は避けられないのか。水族館は物語の最後へと続く。

 

依頼人の話をシャーロック、ジョン、メアリーの3人で聞いている。メアリーの同席は、シャーロックの提案だね。メアリーの観察力や推理力をシャーロックは信頼している。

 

いくつもの事件を同時に解決していくシャーロック。おや、お久しぶりのディモック警部。あの時、S1E2の最後でシャーロックは警部にハナを持たせてあげたからね。シャーロックのファンに?

皿をまわすようなことはやめろ、とジョンに言われるが、ドラッグのせいで頭脳の超高速回転が止められないシャーロック。

 

メアリーの出産。あわや車の中で。初めてジョンが運転している。

 

無事、ロージーちゃん誕生。一瞬たりとも、携帯電話を打つ手を休めないシャーロック。事件を解決し続ける。

 

ジョンとメアリーの家

ジョンとメアリーは、ハドソンさん、モリーに教母を、シャーロックにも教父に、と頼む。

会話の後でずっと画面に流れている文字。シャーロックは、ひたすら事件を解決し続ける。

 

教会

洗礼式。牧師が話している間もシャーロックは携帯電話を打ち続けて、モリーに怒られる。ここの神父の教父母への言葉は伏線の意味もありそう。Siriが応えるシーンは、笑えるところだけれど、これはドラッグの描写の一つ。

 

イカー街221B

ロージーちゃんをあやすシャーロック。シャーロックが、ワトソン、と名セリフで呼びかけている相手はロージーちゃん。 

ロージーちゃんにガラガラをぶつけられるシャーロックが可愛い。

 

その後に描かれているのは、徹夜の育児疲れで、眠り惚けるジョンとメアリーの姿だ。

ストーリー上は、次のシーンに続くこのカットの方に意味がある。

 

バスの中

育児の睡眠不足でうとうとしているジョンに、明日の5時にベイカー街に来いというシャーロックからのメール。しかも、メアリーの許可は得たと追伸。ジョンはアタマにくるよね。まずメアリーですかって。

見知らぬ美女がジョンに微笑みかける。そこに描かれるのはロージーちゃんのオムツを取り替えるジョンの日常。あの冒険野郎、ジャンキーのジョンが。一見すると微笑ましいシーンなのだが。

 

イカー街221B

レストレードが事件を持ってくる。現役の閣僚、デービット・ウェルズバラの息子チャーリーの遺体が車の中で見つかった。

シャーロックは、話を聞いただけでほとんど解決。

 

レストレードとジョンの育児の話がいつのまにか、シャーロックに重なる。

 

ウェルズバラ邸へ向かう三人。ジョンへメアリーから電話がかかってくる。オムツとクリームを買うよ、と話すジョン。だが、メアリーは、買い物のことよりシャーロックの推理のことを知りたがる。既に二種類のビニールシートのことを知っているメアリー。メアリーは事件解決の核心に早くもたどり着いている。

なぜそれを知っている?というシャーロックに、

受付嬢ってものは何でも知ってるの、とメアリー。最後に続く伏線。

 

ウェルズバラ邸

携帯電話を通じたメアリーとシャーロックの会話は、テンポのいい小気味よい会話だ。二人は事件解決の良き相棒。

 

メアリーとの会話の最後に挟まれる短いカット。

 

シャーロック:  大衆はバカだ  People are stupid.

メアリー:  一部はね some people

シャーロック:  みんな・・・ほとんどバカだ

All people are stupid.  Most people.

 

昔の傲慢さが戻っている。

 

やりとりをそばで聞いていたレストレードは、

(メアリーは)  なぜ、ジョンと夫婦に?  彼女は君向きだ、とシャーロックに言う。

レストレードは冗談のつもりだろうが、ジョンは立場がない。

シャーロックには、同性の同僚のような、軽口をたたきながらお互いに刺激を与えあえるメアリーとの関係は心地よい。だがその丁々発止に入れないジョンは、謎ときから取り残される。

 

ウェルズバラ夫妻と会ったシャーロック。チャーリーのことはそっちのけで、サイドテーブルの不自然にあいているスペースに興味を惹かれる。

 

シャーロックは、以前のように独善的な態度をとる。ジョンは、そのたびにシャーロックに注意する。 S1、 S2でたびたび描かれたシーンだ。

しかし、ジョンの言葉は今のシャーロックには届かない。以前は、ジョンのアドバイスを受け入れようとしていたのに。ジョンの言葉を聞こうとしないシャーロック。

そばにいるのに、離れている二人。

 

親指のうずきが何かあると告げてる、とシャーロック。調子の悪いシャーロックだが、身体的な感覚は、いつもどおりだ。

 

勘は意識が理解する前のデータの表れだ

 

すでにチャーリーの事件を解決しているシャーロック。

シャーロックの関心はもっぱらサイドテーブルに。そのサイドテーブルにはミセスT、つまりマーガレット・サッチャーの写真や人形が飾ってある。空いた場所には、サッチャーの石膏の胸像があった。石膏像はそこから何ものかによって持ち出され玄関ポーチで割られた、ということがわかる。

 

ほころびから出た糸だ

妙な感じが

 

一瞬モリアーティの顔が浮かぶ。ここのシャーロックの勘は、はずれ。

 

シャーロックはジョンとレストレードを残し、一人で車に乗り込むと、ザ・マルへ。ま、これは今までに何回もあったけどね。

 

描かれているのは、調子の悪いシャーロック。ただ調子が悪いのではなく、今まで変化してきた人格が逆に過去に戻ったような描写だ。このような描写は、この後も続く。

この傲慢さ、自己中心的な発想は、物語の最後まで変わらない。そして。。。

 

ジョンはジョンで、シャーロックからは事件解決の相棒の役割を期待されず、育児で行動が制限され、冒険に参加できない。

 

本来の二人ではない二人。私たちが見たい二人ではない描写が続く。

しかし、これは長い長い伏線。というか、むしろメインのストーリーと言ってもいいのかもしれない。