この小さな窓の向こうに

BBC「シャーロック」にはまる日々。今は亡きナンシー関を思いながら感想を綴ります。

Sherlock S2E1-4

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イカー街

外へ出るとジョンは美女に呼び止められる。

てっきりマイクロフトだと思いながら車に乗り込むジョン。

車をよこしたのはアイリーンだった。アイリーンの車は黒いジャガー

 

ここの場面転換が、またステキ。

字幕では、ジョンは車に乗りながら、「僕に電話すればいいのに。マイクロフトはなぜこんな手間を」となっていた。

Mycroft could just phone me, if he didn’t have this bloody stupid power complex.

 

そしてジョンが連れていかれるのは美しい産業遺跡、バタシー発電所=power complex.

 

このpower complexのダブルミーニングもYuko Katoさんのブログから。

 

 

バタシー発電所

マイクロフトだと思っていたのに、アイリーンが登場して驚くジョン。しかしそれはすぐに強い怒りに変わる。

 

生きているってシャーロックに言えよ

私は姿を消す必要があったから

 

シャーロックに早まって預けた携帯電話を取り戻すのに協力して、とアイリーン。もちろんジョンは即座に却下。

携帯電話は意図的に渡したのだから、ここは生きていることを知らせるため?

 

アイリーンがシャーロックに送ったメールの文面を聞いて、君はシャーロックといちゃついてたのか  flirted?   と怒るジョン。

Let's  have  dinner  は大人の誘い言葉。

ジョンから見ると、その気もないのにシャーロックをからかっているようにしか見えない。

 

アイリーンに、妬いてるの?と言われ、

僕たちはカップルじゃない。僕はゲイじゃないというジョン。

一方、自分はアイリーンは自分はゲイだと言う。

 

ジョンはやっぱり妬いてるね。

アイリーンのセクシュアリテイーについてはちょっと謎が残る。マイクロフトがバッキンガム宮殿でアイリーンのことを説明する時に、有名作家の夫と妻と両方関係をもった、と言っていたから、バイなのかも。

 

”アアーン”  が鳴り、すぐそばにシャ-ロックがいることを二人は知る。

この後のアイリーンが言う

「私なら追わないでおくけど」は優しい。

 

最後のアイリーンの言葉でわかるのは、彼女もまたシャーロックに惹かれているということ。ジョンはジョンで、シャーロックの悲しみを思って、彼の心をもてあそぶアイリーンに怒りを感じている。二人ともシャーロックを大事に思っている。その二人の出会いと対決の場だ。

 

アイリーンは、決して本心を他人に見せない。食うか食われるかの社会では、仮面をかぶり、人の弱みにつけこまなくては自分が破滅するからだ。だが、この一瞬、ふと人を思いやる言葉が出てしまう。仮面の下に隠した顔が。

 

イカー街

予想していなかった事態に混乱し、気持をコントロールしようとしながら歩くシャーロック。

 

駆け引きに関してはアイリーンのほうが一枚も二枚も上手だ。何しろそうやって生きてきたのだから。シャーロックは悪女のたくらみに翻弄されるばかりだ。

 

ドアに異変の気配。シャーロックの目が怒りに燃える。この目がすごい。

ハドソンさんに手を出すとは!

 

イカー街221B

CIAの男がハドソンさんをとらえ、アイリーンの携帯電話を出せと。ほどなく男は窓の下のゴミバケツへ。

 

イカー街221A

シャーロックは部屋に入ってくるなりマットで靴をゴシゴシすると、冷蔵庫をあけてクッキーをほおばる。12歳の中学生そのものだ。

コメンタリーでベネディクトは普段の僕そっくりだとも。

 

ハドソンさんは泣きまねをしてシャーロックのガウンから携帯電話をぬきとり自分の胸元に入れて隠していた。素晴らしい勇気、機転。

 

Mrs  Hudron  leave Baker  Street?  England  would  fall.

 

ハドソンさんが去ればイングランドは滅びる!とシャ-ロックが宣言する。

ここの字幕は「国が滅びる」となっていた。イングランドを「国」と訳すのが適当かどうかは疑問が残る。何しろ、女王の統治下にないから。でも、イングランドという土地には意味がある。生まれ育った場所。と、いう意味ではやはり「国」だろうか。たぶん、シャーロックはサセックス出身だからね。これはまた後で明らかになる。

 

このシーンのことをベネディクトはコメンタリーで「依存と愛情で結ばれた関係」と言っていた。この言葉もまたなんとも素晴らしい表現だと思う。

 

イカー街221B

留守の間に訪問者が。シャーロックのベッドにアイリーンが寝ている。アイリーンは髪をおろして。お守りの携帯電話を持たないアイリーンは、命の危険と隣り合わせだ。

 

携帯電話のロックをあけるパスコードをめぐるかけひきは、どちらもひけをとらない頭脳戦だ。

 

シャーロック:  なかなかやるな   Oh,  you're  rather  good.

アイリーン:  あなたこそ  You're  not  so bad.

 

コメンタリーでここは二人の気持が高揚してセックスをしているようなもの、とモファット。それを感じるジョンが突然、Hamish  と、割ってはいる。やっぱり妬いてる。

ハーミッシュは、ジョンのミドルネーム。

 

アイリーンが自分でロックを解除して、パズルのような数字を示すと、シャーロックはあっという間に、明日の夜6時30分発、ヒースローからボルチモア行きの747型機、007便だと謎を解く。

 

賞賛は無用と。僕ってすごい、という意味ね。

 

だが、すぐにアイリーンはモリアーテイにメール。するとモリアーテイはマイクロフトに謎を解いたことを知らせるメールを送る。

 

全て、モリアーティの指示だった。

全ては、モリアーティの指示で、シャーロックに謎を解かせるためにアイリーンが仕掛けた罠だった。

 

再びマイクロフトの家

モリアーティからのメールを受け、頭をかかえて困惑し苦悩するマイクロフト。

自らの社会的立場と責任、弟への思い。その間で引き裂かれる。

 

しかも弟が関与するよう道をつけたのは自分だ。自分の迂闊さを呪う。こうなることは予想できていたのに、なぜあの時、策を講じてでもやめさせなかったのか。。

 

徐々にカメラがひいていき、部屋の全貌が写しだされる。

大きなテーブルの両側には、巨大な純銀のチェスの駒が控える。窓の上部には三つの紋章。

窓の外に目をやればシャクナゲ

さらに芝生の庭が広がり、その先には大木が茂る。典型的なアッパーの都市近郊の住まいだ。

 

イカー街221B

暖かな暖炉の火の前でシャーロックがヴァイオリンをつまびく。つかの間の静かな時間が流れている。

 

シャーロックは考えをジョンに話しているつもりだった。代わりにアイリーンが聞き手になる。

シャーロックは、第二次世界大戦中のコベントリー作戦のことを話す。ここはまるで愛し合う恋人どおしのラブシーンそのものだ。

 

もし、世界が終わるなら、今夜が最後の夜だったら、お食事してくださる?

 Oh,  Mr. Holmes...if  it  was  the  end  of  the  world,  if  this  was  the  very  last  night ,  would  you  have  dinner  with  me?

 

これは強力なお誘い。セクシャルな意味。

スクリプトを読み返してみると、このやりとりの少し前でアイリーンはかなりきわどいことを言ってシャーロックを誘っている。でも、シャーロックは僕はお腹はすいてない、と話がかみ合わない。

そのかみ合わなさがおかしくもあり、また、物語の伏線にもなっている。

 

シャーロックとアイリーンの顔と身体が探りあいながら次第に近づく。

アイリーンの手がシャーロックの手にふれ、シャーロックもまたアイリーンの手に自分の手を重ねる。

しかし、この時シャーロックは冷静にアイリーンの脈をとっていた。冷酷シャーロック。

 

ハドソンさんの声が響き、マイクロフトの迎えが来る。この時のマイクロフトの車は黒のベンツ。やっぱりね。

 

ヒースロー空港、747型機ジャンボジェットの機内

死者のフライトのことがマイクロフトから語られる。長年準備した作戦がメールの断片のためにテロリスト側に流れ、作戦は無駄になった。

 

マイクロフトは、

自分をひけらかしたい孤独でウブな男のせいで、と冷たく言い放つ。

彼をたぶらかす利口な女。

パズルを与えて右往左往させる。

 

あまりにも、的確すぎる言葉。

それを黙って聞くシャーロックにさらに追い討ちが。

 

髪をアップにしたアイリーンが現れ、

ホームズさんと呼びかける。

それは弟ではなく兄のほうを指していた。打ちのめされたシャーロックの表情。

 

マイクロフトの家

アイリーンが自分の保護のためマイクロフトに要求をだす。とんでもない額だ。

君は国を屈服させる女王様か、とマイクロフト。  dominatrix 再び。

And  here  you  are,  the dominatrix  who  brought  a  nation  to  its  knees.

 

ここの脚本はうまいな!モファット。性的な意味と政治的な意味をかけている。

 

アイリーンがモリアーテイの名前を出した途端に、シャーロックは何か考え始める。モリアーティの名前が、シャーロックの思考と推理のスイッチをいれた。そこで流れは一気に変わる。

 

シャーロックがアイリーンの携帯電話のロックを解き、形勢は逆転する。

 

感情は、敗者の側の化学的欠陥だ。

Sentiment  is  a  chemical  defect  found  in  the losing  side.

 

解除コードは。。。

I  AM   "SHER"   LOCKED

 

アイリーンの悪女の顔の下にある素顔。シャーロックへの気持をおさえられなかったアイリーン。パスコードは、最初は遊び心のつもりだったのだろうが、そこにはやはり隠しきれない本当の気持が示されていた。

 

一文字づつ、自分の名前のスペルを打ち込んでいく冷酷なシャーロック。

アイリーンの恋心を一つづつ、また一つづつ砕いていく。

 

最後に、ゲームに勝ったのはシャーロックだった。

 

 

 

その5に続きます。